Wednesday, November 04, 2009

9条を生きる(1)

*「マスコミ市民」489号(2009年10月)より

9条を世界へ未来へ  木瀬慶子

 木瀬慶子は、9条連事務局員として活動している。

 「9条連事務局の役割は、全国の運動をつなげていくことだと思っています。各地に9条擁護や9条を広げるためのいろんな取組みがあります。それぞれの発案、企画で集会もやりますし、本やブックレットも出します。各地の状況に応じてさまざまな取組みが続いています。私たちはそうした情報を受け取って、それを流していくことで、あっちにはこんな人たちがいる、こっちではこういう取組みの工夫があるということを、みんなで共有していくことができます」。

 9条を守り広める運動といっても、講演会を開いたり、ニュースを発行したり、映画上映をしたり、平和コンサートを開いたり、いろんな企画がある。しかし、ひととおりやってしまうと、次に何をしたらいいのかと悩むことも少なくない。ゲスト講師の話を聞けば勉強にはなるが、その先の一歩はなかなか踏み出せない。各地で署名運動に取り組んでいるが、集めた署名を行政側はろくに見てくれない。受け止めようとしない。それでは護憲運動は何をすればいいのか。

「グッズの販売でも9条の歌でも、それぞれの工夫があり、みんなで共有していくことで、9条の運動が市民運動に根付いていきます。講演会も署名も大切ですが、9条を守るためには、守る運動をしても難しい気がします。守るためにも、みんなで知恵を出し、工夫して、一歩前に出る運動を強めていきたいです。同じ思いの人との協働が中心ですが、むしろこれまで一緒にできなかった人たちや、以前は知らん顔をしていたような人たちとも意見交換しながら、運動を定着させ、発展させたいですね」。

 9条連準備に加わった木瀬の問題意識は、「9条を守る」「戦争反対」の思いを的確に表現できる言葉はないだろうかであった。庄幸四郎、チャールズ・オーバービー、勝守寛といった人々と出会うことによって、同じ問題意識で取り組んでいる人が意外に多いことを知った。

「9条を守る」ことは大切だ。でも「9条を守る」だけでは、日本政府の戦争政策に対抗できないのではないか。運動の志向をもっと的確に表現できる言葉はないか。たどり着いたのが「9条を世界へ未来へ」だった。アメリカ人のオーバービーが「9条を地球憲法に」と提唱しているのと同様に、9条連は「9条を世界へ」広める運動をひとつの柱にしてきた。世界社会フォーラムへの参加もその一環だ。

「二〇〇四年一月にインドのムンバイで世界社会フォーラムが開催されたので、9条連として参加して、ワークショップを開催しました。世界社会フォーラムは初めてでしたので、いったい何ができるのかと不安もありましたが、世界の人々に9条の意義を訴えました。9条の世界観は、初めての人にもすぐに伝わるのです。斬新で、しかも深いところで世界の平和思想とつながっているからです。二〇〇五年一月には、ブラジルのポルト・アレグレで開催された世界社会フォーラムに再び参加して、ワークショップを開催しました。さらに二〇〇六年六月にはカナダのバンクーバーで開催された世界平和フォーラムに参加して、ワークショップを開きました。9条の意義は着実に世界に伝わっています」。

韓国の平和運動との交流も重要な取組みになっている。二〇〇六年四月、済州島ピースツアーに出かけた。済州島は、一九四八年四月に民衆虐殺が行われた。四・三事件と呼ばれる。二〇〇八年四月には、その六〇周年記念慰霊祭がとりおこなわれたので、9条連として参加した。それに先立って、三月には、ソウルで水曜デモに参加した。水曜デモとは、日本軍性奴隷制の被害者である元「慰安婦」たちが毎週水曜日にソウルの日本大使館前で要請行動を行ってきたものだ。五月にもソウルに出かけ、水曜デモの主管を担当した。

「二〇〇七年に韓国で9条の会が結成されました。その時に韓国挺身隊問題対策協議会と出会いました。戦争の暴力被害を受けた女性たちのための歴史博物館がつくられていました。憲法月間に水曜デモが行われたので参加したのです。二〇〇九年五月にも水曜デモの主管になりました。ですから、水曜デモの精神を日本に持ち帰って、各地の自治体決議運動にも加わりました」。

自治体決議運動とは、日本軍性奴隷制(慰安婦)問題の解決を日本政府に求める勧告を自治体決議として実現しようという運動である。これまでに宝塚市、清瀬市、札幌市、福岡市、箕面市、三鷹市、小金井市などの議会が決議を可決している。

慰安婦問題の勧告は、これまで国連人権委員会、人権小委員会、国際労働機関によって出されてきた。さらに近年は、アメリカ議会、カナダ議会、オランダ議会、EU議会なども相次いで決議を出している。国際機関と、各国議会の決議を受けて、日本の民衆も、自治体決議運動を展開しているのだ。9条連も地域での運動に取組み、ネットワークづくりをすすめている。