Monday, March 01, 2010

グランサコネ通信2010-06

CERDの日本政府報告書審査(2月25日・前半)

以下の記録は、現場でのメモと記憶に依拠していますが、正確さの保証はありません。CERDのおおよその雰囲気を伝えるものということでご了解願います。

上田大使--昨日の質問に答えるために、徹夜で準備したスタッフもいる。分担して答えたい。

審議官・アイヌ総合政策室長--ダー委員、ディアコヌ委員から、UN先住民族権利宣言、ILO条約に沿った形で強化する必要や、アイヌ民族の参画の重要性の指摘があった。有識者懇談会、および国家が主体性を持って取り扱う政策室をつくった。2009年有識者懇談会、日本はUN宣言に賛成したので国際指針として受け止め、またICERD2条の特別措置を視野に入れながら検討中である。具体的政策を着実に進めるため、2009年12月、政策推進会議を開催した。カルザイ委員から、包括的政策への参加、中央政府の主体性について指摘があった。有識者懇談会は7名うち1名のアイヌ委員、具体的に今後の検討のなかで強い配慮をする。2009年12月、推進会議を設けた。イニシアティヴをとって総合的具体的に検討していく。14名のうち5名がアイヌ委員で、このCERDに傍聴に来ている北海道アイヌ協会の阿部ユポさんも委員である。国連人権小委員会委員だった横田洋三氏、自由権規約委員会委員だった安藤仁介氏もはいっている。3月に作業部会を開くが、主に、公園の整備、および生活実態調査を行う。調査は生活向上政策のためで、北海道に限らず、全国展開が必要である。アイヌの人々が、北海道以外のどこにどれだけ生活しているのか、生活向上施策の前提として、アイヌの生活実態を調査する。もちろん、プライヴァシー問題があるので、作業部会には、阿部さんも参加予定であるが、アイヌの人々の意見を聞きながら調査を行う予定である。アイヌ対策は、有識者の意見を聞きながら進める。アイヌの人々がアイデンティティに誇りをもって継承できるようにしたい。カルザイ委員、アフトノモフ委員から、アイデンティティに誇りを持っていない、アイヌからウタリに変えたのは、どういうことか指摘があった。日本社会の発展の結果、アイヌ文化に深刻な打撃を与えたことが、アイヌに対する差別をもたらし、アイデンティティに誇りをもちにくくしたが、アイヌの人々は誇りを持って生きようとしている。このことは極めて日本にとって意義深い。アイヌが自らをアイヌと誇りを持って言えるような状況をつくりたい。ウタリから北海道アイヌ協会へと変更された。差別と偏見のためアイヌを使わずウタリを使ってきたが、昨年、北海道アイヌ協会に変更した。自らをアイヌと言える環境が少しづつ整っているからである。ディアコヌ委員から、漁業へのアクセス制限について、および土地・資源の利用活用について指摘があった。アクセス制限というのは、内水面におけるサケの採捕は、水産資源の保護のためすべての国民に禁止されている。アイヌにだけ制限されているのではない。内水面におけるサケの採捕が、アイヌの伝統儀式にとって必要であることを考慮して、特別に許可することが一部の河川で行われている。土地利用についても有識者懇で議論している。伝統的生活空間の再生事業、国公有地で文化伝統継承に必要な植物資源の利用である。十分利用できない、支障となっているとの指摘があるので、意見に耳を傾け、国民の理解を得ながら、配慮していきたい。伝統的生活空間の再生、拡充を行うこと、国有地の自然素材の利用の調整の場を作ること、これらを段階的に実現したい。最後に、ソンベリ委員から、アイヌの権利強化に向けた立法措置、今後の政策の展開の中で、生活実態調査結果を踏まえつつ、法に位置づけるべき具体的政策も検討することが必要との指摘があった。立法措置については、懇談会報告書も言及している。政府としては報告書も踏まえながら検討していきたい。

外務省--アイヌ以外について独自の民族として認めるかにつき、ソンベリ委員など多くの質問があった。私どもは専門家でないので、民族性について断定的なことはいえない。ただ言えることは、長い歴史の中で特殊の文化や伝統を維持してきたことであるが、先住民族はアイヌ以外に存在しないと考える。ICERDの精神に沿って、沖縄に対して差別があるのか、あるとすればその対策をどうするかを考えたい。沖縄人も等しく日本国民であり、国民として権利があり、救済を受けることができる。自己の文化を享有し、言語を使用する権利は否定されない。継承されてきた文化資源の活用も認められる。世系の解釈は前回も今回も明確にしている、これを繰り返すのではなく、解釈について意見交換するよりも、同和に関して差別があるのか、あるとすれば対応されているのかを議論することが重要である。政府としては、憲法14条の法の下の平等の原則を最大限尊重して、いかなる差別もない社会を実現したい。

法務省大臣官房秘書課--アフトノモフ委員、ディアコヌ委員から、戸籍制度について質問があった。戸籍制度は、夫婦親子の関係を一覧的に把握できる合理的制度であり、編成の見直しは考えていない。戸籍へのアクセスについて、不正請求がなされる事案があるため、個人情報保護の観点で2008年に法改正を行い、請求者の本人確認などを定めた。ディアコヌ委員から、同和対策特別措置法は目的達成したのかと質問があった。特別措置法で対応してきた、しかし、国と地方公共団体において、30年以上の取り組みを継続した結果として、劣悪な生活環境は改善したし、差別意識も変化してきたので、同法の必要性が検討され、2002年に終了した。人権擁護機関は人権問題に適切に対処し、人権侵犯事件の調査、人権侵害の排除、再発防止のために取り組んでいる。インターネット上で差別助長書き込みがある場合は、情報削除をプロバイダに要請している。人権啓発活動もしている。

文部科学省--ソンベリ委員、アミール委員から、差別意識の払拭のための歴史教育の重要性の指摘があった。学習指導要領などでは、小中学校の社会科については、近隣諸国も含め世界の歴史と関連付けて教育するように定めている。高校では世界史を必修科目としている。日本史でも近隣諸国との関連を指導することとしている。地理においても近隣諸国研究がある。公民、現代社会、政治経済では人権に関する国際法について理解させることとしている。マルティネス委員から、外国人の子どもの教育についてご指摘があった。外国人の子どもも義務教育への就学を希望する場合、ICCPR3条、CRC2条を踏まえて、無償で受け入れている。外国人の子どもが外国人学校を希望すれば、そちらに通える。義務教育就学機会を逸することがないよう、就学ガイドブックを7カ国語で用意して教育委員会に配布している。帰国外国人受け入れ事業、バイリンガル相談員、母語のわかる指導員の配置、 円滑な受け入れと地域をあげての支援体制の整備をしている。ソンベリ委員から、ブラジル人学校、ペルー人学校について質問があった。現在、ブラジル学校が84、うちペルー学校が3校あり、うち53校がブラジル政府の認可を受けているので、ブラジルの上級学校への進学が可能である。比較的短期間のうちに帰国を予定している子ども、保護者のニーズに従って、ブラジルの教育課程に従っている。政府としては、授業料のための助成、健康診断の援助、ブラジル学校の改善に資するための調査研究もおこなっている。ソンベリ委員、ディアコヌ委員から、経済的支援、税制上の措置について、外国人学校間の差別があるとの指摘があった。学校教育法134条にもとづく各種学校として都道府県知事の認可を得ている外国人学校には、地方自治体からの助成があり、税制優遇もなされている。認可を受けている学校は一定の要件を満たせば、消費税が非課税となり、授業料も非課税である。学校法人の場合、所得税、法人税、住民税が非課税となる。さらなる優遇措置については、短期滞在者を多く受け入れている一部の学校に認められている。対象外の学校への差別とは考えていない。範囲の拡大には新たな政策目的、基準について検討が必要である。

厚生労働省--朝鮮人について、たくさん質問があった。まず労働条件、生活改善などである。ファン委員から、朝鮮人が教育、雇用で平等な扱いを受けていないと質問があった。在日朝鮮人を、公立学校に無償で受け入れているし、外国人学校に通うこともできる。雇用については、差別解消のため、事業主を指導啓発している。国内の事業に使用される労働者には、国籍に関係なく労働法が適用される。社会保障法は、適法に滞在する外国人には日本人と同じように適用される。

法務省人権擁護局--ディアコヌ委員、デグート委員、ソンベリ委員から、在日朝鮮人への嫌がらせについて指摘があった。嫌がらせについては、人権擁護機関において、啓発活動、「人権を尊重しよう」という年間を通しての啓発活動を行っている。人権相談所では、人権相談に応じて、事案を認知した場合は速やかに調査し、適切な措置をとっている。北朝鮮の核実験を契機に、嫌がらせが懸念される場合、啓発、相談、情報収集、侵犯事件など、迅速に調査し、人権擁護の取り組みを強化するよう指導している。最近では2009年4月、飛翔体発射の後に、このような指導を行なっている。

人権人道課長--ディアコヌ委員の質問だが、朝鮮人の子どもが独自の文化について学ぶ機会が担保されている。朝鮮学校は各種学校として認可されており、寄付金にかかる取り扱いを除き、非課税とされている。韓国学校については、韓国語、韓国文化の学習もしているが、学校教育法1条の認可もある。1条校は学習指導要領にのっとった教育をしている。朝鮮学校の多くのもについては各種学校として認可され、補助金を受けている。大学受験資格が東京の外国人学校に限られていて、地方は受験できないのは差別ではないかとの指摘があったが、そうではない。大学入学資格については、国籍の有無に関わらず高等学校卒業又はこれと同等以上の学力のある者となっている。東京に限るわけではなく、例えば静岡5件、愛知8件、三重では2件、認められた外国人学校がある。2003年9月、大学受験資格の弾力化を行い、高校修了者については外国政府により位置づけられている場合、あるいは国際的評価団体の認定を受けた学校修了者、および個別の入学資格審査をすることができると追加した。従って、すでに広く認められている。アフトノモフ委員から、高校無償化法案について、朝鮮学校を除外する旨の(中井)大臣発言が報道されているとの指摘があった。高校無償化法案は、1月に閣議決定がなされ、今国会に提出されたものである。指摘のあった記事の内容は承知しているが、法案では高等学校の課程に類するものを文部科学省できめるとしている。今後の国会審議を踏まえつつ適切に考慮していきたい。ソンベリ委員、アミル委員から、人権教育について質問があった。政府は幅広く人権教育啓発を行っている。2002年3月の基本計画に基づいて学校教育・社会教育において、人権意識を高める、差別意識の解消、充実強化をはかっている。憲法、教育基本法の精神にのっとり、児童生徒の発達段階に応じて人権教育を行っている。学校、地域が一体となった人権教育総合推進地域を指定し、指導方法の実践的研究をしている。指定学校を指定する先進的取り組みの普及に努めている。若い年代に対するプログラム、若い世代についても公立学校のカリキュラムに取り入れている。

法務省人権擁護局--外国人、アイヌ、同和について全国各地で講演会、シンポジウム、研修を実施している。マルティネス委員から、モニタリングメカニズムや統計について質問があった。外国人に対する差別を含む人権問題について、全国の法務局は、適切な助言を行い、関係機関の紹介をしている。人権侵害の疑いある場合、侵犯事件として調査する。人権侵害の排除、再発防止につとめている。2008年、新規の事件数は121件であり、うち差別待遇97、暴行虐待16である。ITについては、啓発活動年間強調計画をつくり、各地で指導実施、他人の名誉やプライバシーを侵害する悪質な事案については、発信者が判明すれば本人に啓発し、特定できない場合、削除をプロバイダに求めている。デグート委員、マルティネス委員、ソンベリ委員から、国内人権機関について指摘があった。政府としても、政府から独立の人権機関が必要と考えている。組織のあり方について問題点の整理検討を行っている。将来、創設しようとしている機関は、パリ原則に沿ったものを目指している。確定的なスケジュールはないが、できるだけ早期に法案を国会提出することを目指している。

外務省--人権条約批准数は数え方により違う。日本は、できるだけ批准している。たしかにICCPR、CRCにも一部留保している。留保は少ない方がいいが、厳密に精査して、留保するべきものは留保している。4条abについては、さまざまな場面におけるさまざまな非常に広い行為を含むので、たとえば思想の流布も対象となっているため、すべてにつき刑罰をもって対処するは、表現の自由、罪刑法定主義など憲法と抵触するおそれがあるので、留保を付すことにした。留保を撤回する考えはない。人種差別について処罰立法措置を検討することは、不当な抑制になるし、立法措置を検討しなければならないほど、日本に差別思想の流布や煽動といった状況があるとは考えない。外国人参政権については、永住者の地方自治体レベルの参政権に関して、1998年10月以来、15本の法案が国会に提出されてきた。政府としては、議論を見守っていきたい。

法務省--ソンベリ委員、ディアコヌ委員から、特別永住者について指摘があった。サンフランシスコ平和条約の締結により、朝鮮、台湾が日本国から分離したので、本人の意思に関わりなく日本国籍がなくなった。その後、特例法が定められ、その他の外国人と比べて退去強制事由が限定され、3年の再入国許可上限は4年となった。これは歴史的経緯を配慮した措置である。また、特別永住者は帰化できる。特別な地縁、血縁があれば、帰化条件は緩和されている。アフトノモフ委員から、帰化しない理由について質問があった。帰化する、しないということは、申請者の意志に基づくものであり、それぞれの方がどのようなメリット、デメリットを感じているかについてコメントすることはむずかしい。ソンベリ委員などから、帰化の際の氏名変更について質問があった。日本国籍を取得しようとする際に氏名変更を促す事実はない。氏名は帰化しようとする本人の意思で自身で決定できる。文字については、日本人についても制約があり、帰化後も平易に読み書きできる文字、広く日本社会に適応している文字であることが必要である。漢字しか使えないわけではない、ひらがな、かたかなも使える。ディアコヌ委員から、難民受けいれについて質問があった。国籍を問うことなく1951年難民条約に基づいて庇護を求める人は、条約に基づいて確実に認定している。配慮が必要な場合、在留資格の変更により在留させる。アジアのみ受け入れることに限定しているわけではない。難民認定手続きについては、情報提供しており、言語については認定申請書は24ヶ国語、案内パンフは14ヶ国語、それぞれ地方入国管理局に置いてあるし、インターネットでも入手できる。申請の際のインタヴュー実施については、希望する言語の通訳人をつけ、十分理解しているかどうか確認している。通訳人の選定、翻訳も迅速に国の負担で行っている。ソンベリ委員から、DVにさらされる移民女性について質問があった。配偶者としての活動6ヶ月、取り消し事由としていることは事実である。この取り消し事由は偽装結婚、虚偽の在留資格取得に対処することを目的としたものである。DV被害者が離婚調停中、正当な理由がある場合は、資格取り消し対象から除外している。資格取り消しをしようとする場合、定住者に別の在留資格に変更する機会を与えるよう配慮している。

外務省--反差別法の必要があるかについて、差別禁止法、4条の実施は、憲法14条の法の下の平等があり、特定の個人・団体であれば刑法の名誉毀損罪、信用毀損罪、業務妨害罪、脅迫罪、暴力行為等集団的脅迫罪、常習的脅迫罪により処罰が可能である。既存の法制度では効果的に抑制することができないほど、差別があるとは認識していないので、法律が必要とは考えていない。人種的動機については、犯行の動機の悪質性の問題であり、量刑事由となっているので、人種差別であることは裁判において量刑で適切に考慮される。ソンベリ委員から、私人間について指摘があった。たしかに、憲法14条は私人間に直接適用はされていないが、民法を適用する際に趣旨が考慮されている。基本的人権を侵害する差別は効力が否定されることがある。損害を与えた場合は不法行為責任があり、賠償をしなければならない。憲法は裁判を受ける権利を保証しているので、差別被害者は法律に基づいて裁判所に救済を求めることができる。これは私人間にも適切に適用されている。デグート委員から、家庭裁判所調停員に外国人がなれないことが指摘された。「公権力の行使」に当たる行為、重要な施策に関する決定、これらに参加するのは国民、日本国民であることが想定されている。裁判所の非常勤職員である調停員については、調停委員会を開き、公権力の行使に当たる行為を行うとともに、参加することを職務とする公務員に該当するので、日本国籍が必要である。

厚生労働省--ピーター委員から、条約の国内法としての効力につき質問があった。個人が権利侵害を訴える際に条約を援用することは可能であり、実例もある。8条の改正、費用について分担金は、通常費用でまかなうべきであり、条約上の義務は、締約国が負担するべきであるから、改正を受諾する予定はない。

外務省--ソンベリ委員、ディアコヌ委員から、ILO115号条約、雇用職業差別防止の批准が指摘された。我が国の法制度との関連につき精査が必要であり、今後も検討したい。憲法14条があり、関連労働法令でも差別に対する施策をしている。ILO169号条約は、刑罰に関する先住民の伝統や慣習にかかわり、罪刑法定主義、刑罰の公平性にふれるので、直ちに締結するには問題が多い。アパルトヘイト条約、スポーツ反アパルトヘイト条約を批准していない件だが、日本政府は従来より一貫してアパルトヘイトについて容認できないという立場をとっている。ICC規程加入にもかかわらずジェノサイド条約を批准していないが、国際社会全体の関心事であるもっと重大な犯罪を、根絶し、予防することが重要と考えている。ジェノサイド条約には、国内法により犯罪化する義務があり、行為が広範であるため、その必要性、国の法整備の内容につき慎重な検討が必要である。

(続く)