Sunday, October 23, 2011

レジュメ:戦争犯罪論と植民地犯罪論

≪2011年度「女性・戦争・人権」学会 年次大会
軍事化と女性に対する暴力 ――現在の国際的な動きのなかで――


2011年10月23日


立命館大学


*



戦争犯罪論と植民地犯罪論


  ――東アジア歴史・人権・平和宣言運動から



前田 朗(東京造形大学)


*



1 はじめに



 本年10月2日、明治大学で開催された集会において東アジア歴史・人権・平和宣言を採択した。宣言は、植民地支配は人道に対する罪であると確認するとともに、植民地犯罪でもあると宣言した。では、植民地犯罪とは何を意味するのだろうか。


「継続する植民地主義」の問題提起を踏まえて、植民地(支配)責任論と植民地犯罪論について考えたい。その際、これまで展開されてきた戦争責任論と戦争犯罪論の関係と対比してみることが整理に役立つのではないか。


1990年代に戦後補償運動が盛り上がり、戦争責任論が再度議論されていた時期、戦争犯罪論の重要性を唱えても、なかなか受け入れられなかった。それが受け入れられるようになったのは、日本軍性奴隷制問題を犯罪と認定したクマラスワミ報告書やマクドゥーガル報告書以後のことであったように思う。「慰安婦」問題に取り組む人たちの中では、戦争犯罪論が徐々に広がっていった。もっとも、戦後補償論には、戦争犯罪だけではなく、さまざまな論点が含まれていたので、このように単純化するのは必ずしも適切ではないかもしれない。


近年の世界的なポストコロニアリズムの隆盛、日本に関する植民地責任論の隆盛についても、そこから学ぶべきことが非常に多いと感じると同時に、その前提として、やはり植民地犯罪論が不可欠であると考える。


というのも、近代国際法は植民地を容認してきた。西欧諸国は自らつくった国際法を使って文明の名の下に植民地を広げていった。それゆえ、植民地支配そのものを批判するためには、国際法の換質が必要である。植民地を容認する国際法や、せいぜい植民地独立付与宣言レベルの国際法ではなく、植民地支配を犯罪とする視座を確立する必要がある。植民地支配下における虐殺や拷問だけが犯罪なのではなく、植民地支配そのものの犯罪性を明示していく必要がある。


そこで、本報告では、戦争責任論と戦争犯罪論についての報告者自身の経験を確認したうえで、植民地責任論と植民地犯罪論を意識して作成された東アジア歴史・人権・平和宣言の内容を紹介する。さらに、その前提となるべき植民地犯罪論について、1990年代の国連国際法委員会における議論を振り返り、今後の植民地犯罪論の可能性を考えてみたい。




2 戦争責任論と戦争犯罪論



2-1 研究と運動における成果


    ・戦争責任論の系譜――家永三郎、荒井信一、吉田裕


    ・戦後補償論の成果――80~90年代の各種訴訟


    ・戦後責任論の問題提起――高橋哲哉


2-2 戦争犯罪論の展開


    ・旧ユーゴ国際刑事法廷1993


・ルワンダ国際刑事法廷1994


・人類の平和と安全に対する罪の法典草案1996


    ・国際刑事裁判所規程1998


    ・ニュルンベルク・東京裁判の再検証


    ・国際化された法廷


2-3 日本軍性奴隷制問題


    ・ファン・ボーベン報告書1993


    ・国際法律家委員会報告書1994


    ・クマラスワミ報告書1996


    ・マクドゥーガル報告書1998


    ・女性国際戦犯法廷2000~01


2-4 国際刑事法の形成


    ・膨大な理論書


    ・判例の蓄積――ジェノサイドの初適用、戦時性暴力の処罰


    ・『戦争犯罪論』『ジェノサイド論』『侵略と抵抗』『人道に対する罪』




3 植民地責任論と植民地犯罪論



3-1 植民地責任論/ダーバン会議に学んだこと


    ・人種差別と植民地支配


    ・継続する植民地主義


    ・植民地犯罪論の可能性



3-2 東アジア歴史・人権・平和宣言の経過


    ・実行委員会2010


    ・日韓市民共同宣言2010


    ・東アジア宣言2011



3-3 宣言の紹介     →資料①



3-4 宣言運動のこれから


    ・記録の出版


    ・2012ソウル大会?


    ・国連人権機関へ




4 植民地犯罪論の模索



4-1 国連国際法委員会      →資料②及び資料ⓐ~ⓔ


    1947 国連総会決議


    1949 ジャン・スピロプーロス特別報告者


    1954 人類の平和と安全に対する犯罪法典草案


    1974 国連総会「侵略の定義」


    1981 作業再開


    1982 ドゥドゥ・ティアム特別報告者任命


         以後、9つの報告書(植民地支配犯罪の名称が入る)


    1991 法典草案暫定採択


    1992~93 国際刑事裁判所規程草案作成作業


    1994 第12報告書・草案の検討


    1995 第13報告書(植民地支配犯罪の名称が消える)


    1996 人類の平和と安全に対する罪の法典草案


    1998 国際刑事裁判所規程



    *植民地犯罪はなぜ消えたか?


*旧宗主国側の反発


    *法的定義の困難性


    *植民地被害の認識の不十分さ


    *植民地被害の継続・現在性の認識の不十分さ


植民地主義と人種差別



4-2 ダーバンNGO宣言2001


         植民地化は人道に対する罪


4-3 東アジア宣言2011


         植民地犯罪と人道に対する罪




5 おわりに



    植民地犯罪の法的定義の困難性


ダーバン・フォローアップの限界


    植民地犯罪論を問い続ける意義


    NGO主導による議論の再構築








<資料>



1991年の国際法委員会43会期に提出された報告書の規定


草案第15条 侵略


草案第16条 侵略の脅威


草案第17条 介入


草案第18条 植民地支配及びその他の形態の外国支配colonial domination and other forms of alien domination


 国連憲章に規定された人民の自決権に反して、植民地支配、又はその他の形態の外国支配を、指導者又は組織者として、武力によって作り出し、又は維持した個人、若しくは武力によって作り出し、又は維持するようにto establish or maintain by force他の個人に命令した個人は、有罪とされた場合、・・・の判決を言い渡される。


草案第19条 ジェノサイド


草案第20条 アパルトヘイト


草案第21条 人権の組織的侵害又は大規模侵害


草案第22条 重大な戦争犯罪


草案第23条 傭兵の徴集・利用・財政・訓練


草案第24条 国際テロリズム


草案第25条 麻薬の違法取引


草案第26条 環境への恣意的重大破壊



1991年7月11日の第2239会期の検討により修正


草案第18条 植民地支配及びその他の形態の外国支配


国連憲章に規定された人民の自決権に反して、植民地支配、又はその他の形態の外国支配を、指導者又は組織者として、武力によって作り出し、又は維持した個人、若しくは武力による設立又は維持をthe establishment or maintenance by force命令した個人は、有罪とされた場合、・・・の判決を言い渡される。



1995年の47会期による変更


草案第15条(侵略)、19条(ジェノサイド)、21条(人権の組織的侵害又は大規模侵害)、22条(重大な戦争犯罪)に限定



協議続行――25条の麻薬の違法取引、26条の環境への恣意的重大破壊



保留された条項――17条の介入、18条の植民地支配、20条のアパルトヘイト、23条の傭兵、24条の国際テロリズム



1998年7月 の国際刑事裁判所規程


侵略の罪、ジェノサイド、人道に対する罪、戦争犯罪



各国政府(25カ国)が1993年の国連国際法委員会に提出した意見書より要約


(A/CN.4/448 and Add.1)



オーストラリア――人民の自決権の射程距離についてはかなり議論の余地があり、刑事犯罪の要素を定義するのに十分とはいえない。「外国支配」という語句にも困難がある。国際法委員会の注釈書によると、外国支配とは「外国占領又は併合foreign occupation or annexation」とされているが、これは自決権に対する犯罪と言うよりも、侵略のカテゴリーに含まれる。この語句は、古典的に原則が適用されてきた植民地の文脈を超えてしまう。



オーストリア――「植民地支配」という表現は特別に追加パラグラフにおいて定義されるべきである。「人民の自決権に反してcontrary to」という語句は「人民の自決権を侵害してinfringing」に変えられるべきである。



オランダ――17条について述べたのと同じ理由から、18条を法典に含めるのは望ましくないと考える。(17条について、その内容は15条の侵略に含まれるし、15条に含まれないようなものを含める必要はない、定義がルーズで不明瞭である、と主張している)



北欧諸国(5カ国)――この規定は、法典に置くのに適した基準を満たしていない。「人民の自決権に反して、外国支配」という語句は、あまりに不正確too impreciseで、あまりに包括的である。現在の用語法によれば、この規定は、例えば、さまざまな形態の貿易ボイコットや、開発援助供与国が開発援助に伴って一定の条件を要求するような状況にまで適用されるだろう。この規定はさまざまな解釈の余地があり、紛争を招くことになる。それゆえ、もしこの規定を存続させるのであれば、もっと正確に定義するべきである。



イギリス――「植民地支配」や「外国支配」という用語は、刑法典に含めるのに必要な法的内容を持っていないし、国際刑法に基礎を持っていない。「植民地支配」は、いずれにしても、政治的態度を思わせる時代遅れの概念である。この言葉が国家責任条約草案第19条にあることが、本法典に含めるのを正当化することにはならない。法的文書である法典に政治的スローガン以外の何物でもないものを導入することは遺憾である。委員会は、処罰されるべき行為や慣行を限定して、定義するべきである。「植民地支配や外国支配」の時期に行われた行為は、さらに定義づけがなされれば、法典にふさわしいものになるかもしれない。例えば、ジェノサイドや、人権の組織的又は大規模侵害のように。



アメリカ――提案されている植民地支配の犯罪は、前に論じた犯罪につきまとうのと同じ欠点を提出する。あいまいかつ過度に広範でありvague and too broad、定義ができていない。この欠陥は、今日の国際的な雰囲気において特に重大なものとなる。より大きな民族的分岐のある社会の領域からより小さな国家が出現しているのを目撃しているような状況では。「外国支配」のような行為を犯罪化しようとする試みは、国際緊張や紛争を増大させることにしかならないだろう。



スイス――この規定は植民地支配やその他の形態の外国支配を非難している。外国支配は、委員会の中にそう考えている国家があるように、「新植民地主義」の意味で理解されるべきであろうか?これには疑いがある。「新植民地主義」は法的に確立した概念ではない。さらに、「新植民地主義」は武力によって行われるとは限らない。それはしばしば国家間の経済的不均衡に由来する。従って、注釈から「新植民地主義」に言及した部分をすべて削除するのがよいのではないか。



*上記の資料①②は省略

Friday, October 21, 2011

内山節『文明の災禍』

内山節『文明の災禍』(新潮新書、2011年)
 
http://uthp.net/
 
http://www.shinchosha.co.jp/writer/934/
 
*著者プロフィル
1950(昭和25)年東京生まれ。哲学者。1970年 代から東京と群馬の二重生活を続ける。著書に、『「里」という思想』『怯えの時代』『日本人はなぜキツネにだまされなくなったのか』 『戦争という仕事』『清浄なる精神』『共同体の基礎理論』など多数。
http://talent.yahoo.co.jp/pf/detail/pp240616?tvzone=kyoto
 
10~20年ほど前に何冊か読んだことのある著者の本です。久々に手にして、そうか、こういうことを考えている人だったのか、と妙に納得。著者の「哲
学」の魅力は、地に足がついた哲学と言うところにあります。海外の現代思想の紹介と は無縁です。生活の知恵の延長上の哲学です。もっとも、一部にはかなりの人気ですが、哲学会ではあまり評価されていないようです。私自身 は、以前は、読み捨て本の中の一つとして購入し読んでいました。ちょっと齧っておくと、モノを考えるヒントになるという感じです。本書は 新書180頁ほどですが、いろんな読み方ができる本です。とりあえず、私は、ライフスタイルの変化をどのように模索していけばよいのかと言う感心で読みました。著者はにわかづくりではないスローライフ、里山の思想の持ち主なので。
 
*序章 供養――死者と向き合う*
 
*第一章 衝撃――自然の災禍、文明の災禍*
 
生命の衝撃
文明の災禍
静かな敗北
敗北のなかの光
 
*第二章 群衆――イメージの支配*
 
システム崩壊の連鎖
情報の壁
バーチャルな時空
情報と身体
 
*第三章 時間――営みをつなぐ*
 
未来の時間の破壊
現代における「ウチ」と「ソト」
力の求心力
虚無のなかから
 
*第四章 風土――存在の自己諒解*
 
グランド・デザイン
地域の復興
イメージのズレ
存在の諒解
コミュニティの意味
復興の意味
 
*第五章 共有――何かがはじまっていた*
 
変革のありか
基層的文明
破綻と転回
自利と利他
社会的使命
 
*終章 自由――イメージとは異なる世界*
 
専門性の罠
 
あとがき
 

安斎育郎『福島原発事故』

安斎育郎『福島原発事故――どうする日本の原発政策』(かもがわ出版、2011年)


http://www.kamogawa.co.jp/kensaku/syoseki/ha/0441.html



「あとがき」が4月18日付で5月に出た本です。原発問題に長年取り組んできた放射線防護学の専門家だけあって、いち早く重要な問題提起をされていました。当然のことながら5月以後の情勢は含まれていません。



放射線に関する解説は、著者の他の本ではずっと詳しいのですが、本書では福島第一原発事故の理解に必要な限りで書かれているので、読みやすいです。もっとも、低線量被曝について詳しく知りたいと言う場合には、本書ではなく、著者の他の本を読むべきことになります。



巻末付録の1972年の日本学術会議での演説を読んで驚愕しました。これが39年前の演説? いや~~本物は違う、とため息が出ます。素晴らしい問題提起です。「32歳の若造だったくせにと、ときどき顔が赤くなる思いですが、よく言ったという感じもあります」とご本人も書いていますが、さすが、です。



原発問題について6つの点検基準を整理しています。


1.自国に根ざした自主的なエネルギー開発であるのか否か。


2.経済優先の開発か、安全確保優先の開発か。


3.自主的・民主的な地域開発計画とどう抵触するのかしないのか。


4.軍事的利用への歯止めが保障されているか否か。


5.安全性の確保、すなわち発電所労働者と地域住民の生活と生命の安全を保障し、環境を保全するに十分な歯止めが、どれほどの実証性をもって裏づけられているのか。


6.民衆的な行政が実態として保障されているのか否か。
























第一章


福島原発事故による放射能災害と私たちの生活


1、福島第一原発事故の態様


2、放射性物質の危険性


3、事故の収拾に向けて


4、私たちはどうすべきか


第二章


放射線による被爆とは何か


1、放射線とは何か


2、放射線の人体への影響


3、被曝への対処はどのようにしたらいいのか


第三章


原発の、何が問題なのか


1、原発とは何か


2、「原発安全神話」を改めて見直す


第四章


どうする、日本の原発政策


1、福島第一原発の廃炉は避けられない


2、既存の原発の総点検を


3、日本の原発政策の再検討を


4、原発の歴史から見えてくること


5、これからのエネルギー政策を考える


第五章


生き来し方を振り返って


1、私と原子力分野との関わり


2、アカデミックハラスメントを超えて



一九七二年日本学術会議原発問題シンポジウムでの基調演説

Tuesday, October 18, 2011

宮台真司・飯田哲也『原発社会からの離脱』

宮台真司・飯田哲也『原発社会からの離脱』(講談社現代新書、2011年)

http://www.isep.or.jp/koudan110617.html

6月に出た本ですが、最近入手して読みました。

ネット上で見ると大変好評の本のようです。

http://www.akihiro-ohta.com/2011/07/post-1477.html

http://mayuharu21.at.webry.info/201108/article_10.html

http://gatemouth8.blog87.fc2.com/blog-entry-105.html

http://d.hatena.ne.jp/state0610/20110619/p1

帯に印刷されている「これからのエネルギーとこれからの政治を語ろう」という言葉の通り、原発をやめられない社会を変えて、脱原発を実現していく具体的な方策が提言されています。エネルギーに関する、飯田氏の提言は、今では良く知られている通りです。

民主党が政権成立の際に、宮台氏が民主党の福山とかいう代議士と2人でつくった本に「革命だ!」と書いて興奮していましたが、そんなことはすっかり忘れてしまったようです。今度は「エネルギー革命だ!」と叫ぶのでしょうか。

本書は要するに「脱原発ビジネス」の本です。悪い意味で言っているのではありません。原発に代わる政治経済を実現するためには、代替エネルギーの提言が重要であることはもちろんであり、そのための脱原発ビジネスが必要になります。各地でみんなが飯田氏の発想に学んで、自然エネルギーを、町づくり、共同体自治につなげて展開していくことが必要です。同時に生活スタイルの見直しも徹底する必要がありますが。

服部禎男『「放射能は怖い」のウソ』

服部禎男『「放射能は怖い」のウソ』(ランダムハウスジャパン、2011年)
http://ameblo.jp/iwasaki0408

電子書籍版
http://noahsbooks.co.jp/sakuhin/sakuhin_detail_B02.html

<原発と放射能を第一線で見続けてきた著者が語る、放射能の真実。マンガつきのQ&A形式で、難しい話が簡単にわかります! 「ここでお話しする内容は実際に私が見たり聞いたりしたことばかりです。世の中にはデマや噂があふれています。どうして作り話がとびかうのでしょうか。どうかそんなものに流されることなく、正しい情報を知って、行動してほしいと思います」(「はじめに」より)>

著者は、中部電力で浜岡1号機計画を推進し、動燃事業団、電力中央研究所理事を経て、電力中央研究所・元名誉特別顧問。原子力ムラの一員です。1989年に放射線ホルミシス研究委員会委員長。

福島第一原発から出ている放射能は「恐れるレベルの放射能ではないので、そこで生活しても何の問題もありません」(30頁)と断定しています。「そこで」は、何度読んでも福島第一原発としか読み取れませんので、原発周辺で生活しても大丈夫という趣旨のようです。子どもや妊娠中の女性も大丈夫と主張しています。

福島第一原発事故がレベル7という点について、「福島が7なら、チェルノブイリは10以上になるんじゃないかな」と述べています(52頁)。7までしかないのに。

細胞は修復することと、低線量被曝は健康にいいというホルミシスの主張に貫かれています。プルトニウムは「飲んだって平気」「たとえ血液に入ったって問題ありません」(117頁)。そして、ICRPの見解は、1927年のマラーのショウジョウバエ実験に基づいているデタラメだそうです。

本書のユニークさは、第1に、福島第一原発で放出された放射能の総量について数値を示すことなく、実証抜きで、恐れる必要はない、大丈夫と断定していることです。

第2に、ラッキー博士に始まるホルミシス理論をはじめとするいくつかの論文を推奨していますが、その具体的内容がきちんと紹介されず、文献の出典も示されず、「トップレベル医学者」「権威」としていること。

第3に、不思議な陰謀論。例えば、「原子力発電が広まることで損をするグループの存在。いろんな背景が電力の裏には潜んでいるんだよ。これは怖い話になるからここまでにしておこうね。」(119頁)。何度かほのめかしているのですが、反原発の陰謀が存在するらしいです(爆笑)。

Saturday, October 15, 2011

池田聖治『原発と陰謀』


池田聖治『原発と陰謀』(講談社、2011年)



http://www.bookclub.kodansha.co.jp/bc2_bc/search_view.jsp?b=2172585&x=B


<http://www.bookclub.kodansha.co.jp/bc2_bc/search_view.jsp?b=2172585&x=B>



本当はこんなに危ない日本!


特殊工作員の「原発テロ」対策を調査・研究した元自衛隊陸将補が語る「原発の


弱点」とは?


私たちがいま「すべきこと」!!


権力者の「ウソ」に騙されずに生き延びろ!!


「いますぐ健康に影響が現れるというものではない」「年間20ミリ シーベルト


などたいしたことはない」というマインドコントロールが行われ、いま、日本人


の多くが油断しつつあります。騙されてはいけませ ん。大切なことは、政府や


経産省、東京電力ではなく、御用学者でもメディアでもなく、あなた自身が自分


の頭で考えることです。311大震災とフクシマの事故が教えてくれたことは、


これではありませんか?――<本文より>



*****************************



著者は、防衛大学校出身、陸上自衛隊で小平学校人事教育部長、陸上自衛隊陸


将補で退官。特殊工作員による「原発テロ」対策を調査・研究していたそうです。



その観点から「原発の弱点」を強調しています。テロリストが何を狙うかと言


う話。



原発事故への認識、対策をどうするか、原発をどうするかについては、なんと


脱原発派と同じです。第4章は「原発をすべて止められるこれだけの理由」で


す。電力会社が儲けるだけ。本当は原発コストが一番高い。火力 発電がベス


ト。全原発停止でも電力は足りる。「東電栄えて日本経済は滅びる」。



本書の特徴は、第6章「日本を騙し続けるアメリカ、騙された振りをし続ける


日本」です。日本の原発も、ビンラディンも、その他あれこれは「謀略国家・ア


メリカ」に始まるという陰謀論です。真珠湾攻撃もアメリカの 陰謀に乗せられ


たという、あの陰謀論です。



こういう本も出ていることを知っておくのはいいことかと。


川上武志『原発放浪記』

川上武志『原発放浪記――全国の原発を12年間渡り歩いた元作業員の手記』(宝島社、2011年)


http://tkj.jp/book/?cd=01853501



著者は、1980年代にプラント建設会社から派遣されて原発作業員として、美浜、伊方、福島第一、玄海などで働き、一時はタイに行っていましたが帰国後、2003年から5年間、今度は浜岡で働いて、合計12年間、原発で働いたそうです。



「放射性物質が発する熱が壁にも床にも染みついていて、本当に窒息しそうになる。匂いはないと言うけれど、高放射線エリアで働いたことのある私は、放射能の発するいやな匂いを嗅いだことがある。錯覚と言われても、嗅いだとしか思えないのだ。/それに、高放射線エリアには独特の空気の濃さがある。放射能は眼では見えないが、この空気の濃厚さ、濃密さが我々労働者の体に危険を教えてくれる。その空気に包まれた瞬間、体が警報を発する。「逃げろ!」と教えてくれるのだ。」



こうした記述がいたるところにあり、現場を知らない私たちに想像させてくれます。特に第1章の高放射線エリア突入は生々しいです。目次を見るだけでも、孫請けのさらに下請けの労働者がどういう現場でどういう扱いを受けて、被曝させられているのかがわかります。搾取、ピンハネ、名ばかりの安全教育、偽装請負、身代りホールボディチェック、不当解雇・・・



著者はいまは原発労働をやめて、浜岡の脱原発の運動とも連絡を取っているようです。中部電力との交渉の様子もわかります。



*************************************



まえがき

1章 高放射線エリアへの突入
 放射性物質の発する「熱」と「匂い」
 安全教育という名のマインドコントロール
 刺青者も集まってきた美浜原発の定検工事
 トンデモ作業員と美しすぎる燃料プール
 福島第一原発での除染作業
 ほか

2章 放浪生活から原発へ
 原子力発電所での経験はあるんかね?
 寮生活での家族的な待遇
 ボタ山のある風景
 初仕事は四国の伊方原発
 飯場さながらの宿舎生活
 ほか

3章 「浜岡原発」下請け社会
 会社を退職してタイに渡る


 昔の仲間からの思いがけない電話
 原発労働者と結婚
 雇用保険も健康保険もない雇用契約
 作業現場は管理区域の通称「ゴミ課」
 ほか

4章 原発労働者の生活
 浜岡原発前のじゃぱゆきさん伝説
 中古のパソコンを購入してホームページを始める
 ハイキングと富士登山
 1カ月半の失業宣告
 原発労働者の習性
 ほか

5章 解雇、籠城、ガン
 雇用保険への加入を求めたら「解雇通告」
 会社の寮で1カ月余り籠城する
 ガン発症と労災申請
 不当解雇される派遣労働者
 5万円の日当がピンハネで8000円に

Friday, October 14, 2011

原爆症認定訴訟熊本弁護団編著『水俣の教訓を福島へ』

原爆症認定訴訟熊本弁護団編著『水俣の教訓を福島へ』(花伝社、2011年)
 
http://kadensha.net/books/2011/201108minamatanokyoukun.html
 
誰が、どこまで 「ヒバクシャ」なのか?
内部被曝も含めて、責任ある調査を!
長年の経験で蓄積したミナマタの教訓を
いまこそ、フクシマに生かせ!
 
なぜ、シンポジウムを開いたのか原爆症認定訴訟熊本弁護団事務局長、ノーモア・ミナマタ訴訟弁護団事務局長 弁護士 寺内大介
 
部 パネラー報告
1 過少評価できない放射線の内部被曝  琉球大学名誉教授 矢ヶ崎克馬
2 フクシマとミナマタをつなぐもの  熊本日日新聞論説委員・編集委員 山口和也
3 プロジェクト04で明らかになったこと  平和クリニック院長  牟田喜雄
4 メチル水銀の長期低濃度汚染について  協立クリニック院長 高岡滋
5 ミナマタの教訓を福島へどう生かすか  元熊本学園大学教授 原田正純
 
部 リレートーク
 
部 特別寄稿
1 ノーモア・ヒバクシャ!  熊本県原爆被害者団体協議会事務局長 中山高光
2 原発事故にミナマタの教訓を生かす  水俣病不知火患者会会長 大石利生
3 フクシマにミナマタの教訓をどう生かすか  ノーモア・ミナマタ国賠訴訟 弁護団団長 園田昭人
 
本書は7月2日に熊本学園大学で開催されたシンポジムの記録です。熊本学園大学と言えば、水俣病と闘い続けた市民科学者、原田正純さん。そして、水俣病の被害者を支えた弁護団は、熊本被爆者訴訟にも水俣訴訟の経験を生かして、道を切り開いていきました。彼らが開催したシンポジウムですから、とても参考になります。原爆訴訟では、日本政府は外部被ばくに限定し、内部被ばくを無視し続けました。これを打開したのが熊本弁護団と矢ヶ崎克馬さん。矢ヶ崎さんには、私たちアフガニスタン国際戦犯民衆法廷でも証言していただきました。国際的にもそうですが、日本でも、まず内部被ばくを無視する。どんな嘘をついてでも頑張る。無視できなくなると、次に、できるだけ過小評価する。この抵抗を打ち破ってきた科学者たちが、いま各地を飛び回っています。被曝だけではありません。水俣病に対する日本政府とチッソの態度がまったく同じでした。ひたすら無責任な日本政府とチッソを相手に闘ってきた科学者と法律家の共同が本書です。
 

エントロピー学会編『原発廃炉に向けて』

エントロピー学会編『原発廃炉に向けて』(日本評論社、2011年)



http://www.nippyo.co.jp/book/5669.html



原子力学会は今年の総会で少しは反省のそぶりを示したようですが、エントロピー学会は一貫して反原発の学会です。4月23・24日同志社大学で開催されたシンポジウムの記録です。



エントロピー学会



http://entropy.ac/



「どなたでもエントロピー学会に入会できます」だそうで、よく言えば市民に開かれた学会、市民科学者の学会です。



本書は副題が長いのですが、「福島原発同時多発事故の原因と影響を総合的に考える」です。無故事を見てもわかるように、福島で何があったのか、何が進行しているのか、これからどうすべきなのかを、多角的に検討しています。8月の出版ですが、4月末のシンポの時点の情報に基づいていますから、今となっては古い部分もないわけではありませんが、全体としてひじょうに優れた内容だと思います。図版資料も充実しています。お勧めです。



はじめに/山田國廣



福島原発同時多発事故から何がわかったか/広瀬隆


福島原発で何が起こったか――原因と意味/井野博満


福島原発で何が起こったか――原発設計技術者の視点/後藤政志


東電・保安院などの事故対応の問題点/ 黒田光太郎


福島第一原発事故による放射線の健康影響/崎山比早子


福島第一原発事故による海洋汚染/福本敬夫


原発事故による土壌汚染を考える


 ――福島原発事故の原因と影響の総合的解明 の試み/山田國廣


飯舘村の放射能汚染調査に参加して


 ――足尾-水俣-福島:日本の公害の歴史から見えてくるもの/菅井益郎


原発廃炉の経済学――危険な低炭素言説の歴史的起源からからの考察/室田武


上関原発の工事中止の行方/三輪大介


パネルディスカッション原発廃炉に向けて/井野博満・黒田光太郎・後藤政志・菅井益郎・福本敬夫


三輪大介・室田武・山田國廣・和田喜彦


付表1 日本の原子力年表/和田喜彦


付表2 日本の原子力発電所一覧/和田喜彦