Thursday, May 30, 2013

侵略の定義について(10)

これまで第二次大戦後、国連における侵略の定義についてみてきた。今回から、第二次大戦前の議論を見て行くが、その際、重要なことの一つに国際法の法源とは何か、がある。一般の人は慣習国際法を理解していないことが多い。侵略についても、日本軍「慰安婦」問題における奴隷概念についても、人道に対する罪概念についても、それを理解するためには、慣習国際法を知る必要がある。ところが、法律について一知半解の知識を持った人ほど、例えば、刑法の議論で罪刑法定原則に関連して「慣習法の禁止」があることを持ちだして、慣習法は認められないかのごとく主張する例が良く見られる。たしかに、日本の刑法について考える場合は、日本は成文法主義をとっているので、慣習法による処罰は認められない。しかし、コモンローの場合には必ずしもそうは言えない。まして、国際法では慣習国際法こそが主要な法源である。以下は、『コンサイス法律学用語辞典』(三省堂、2003年)。                                                                <慣習国際法――条約と並ぶ国際法の主要な法源。国際慣習法ともいう。一般に慣習国際法は大多数の国家が同じような状況において同様の行為(作為および不作為)を反復しているという意味での一般慣行と、当該行為が法的に要請されているという観念に基づいているという意味での法的確信(法的信念)を要件として成立するとされる。慣習国際法の規則は成立時期の特定や、不文法であるため規則の内容の確定が困難な場合もあるが、統一的立法機関を欠く国際社会では普遍的に適用する法として大きな役割を果たしている。>                                                                                 第二次大戦前又は大戦時に侵略の定義が国際的に成立していたか否かは、条約などの成文法における定義があったか否かとともに、慣習国際法上の定義があると考えられていたか否かをも議論しておく必要がある。

ヘイト・クライム禁止法(21)

ヨルダン政府が人種差別撤廃委員会に提出した報告書(CERD/C/JOR/13-17. 21 September 2011)によると、刑法150条は「異なる信仰集団や他の国民構成員の間に、信仰や人種の対立を引き起こし、紛争を作り出す意図や効果をもって、著述、演説又は行動を行った場合、6月以上3年以下の刑事施設収容及び50ディナール以下の罰金に処する」としている。刑法130条は「戦時又は戦争が勃発しそうな時に、国民感情を弱体化させ、又は人種又は信仰の対立を引き起こすためにプロパガンダを広めた者は、一定期間の重労働の刑罰に処する」としている。戦時のもので平時ではない。また、国民感情の弱体化が主題であって、必ずしもヘイト・クライム規定とは言えない。刑法80条は、煽動、参加、従犯などを定義している。団体禁止については、刑法151条が、150条に規定された基準で設立された団体に所属した者に、同じ刑罰を科すとしている。当該団体は解散となる。オーディオヴィジュアル法20条は、放送におけるテロ、人種主義、宗教的不寛容を禁止し、印刷出版法七条は、ジャーナリストの行動規範を定めている。刑法278条は、他人の宗教感情を害する印刷物の配布などを処罰している。

Wednesday, May 29, 2013

ヘイト・クライム禁止法(20)

カナダの法状況については、既に日本の憲法学者による紹介があるが、カナダ政府が人種差別撤廃委員会に提出した報告書(CERD/C/CAN/19-20. 8 June 2011)によると、刑法430条(4.1)は、偏見、予断、憎悪に基づいて、主に教会、モスク、シナゴーグ、寺院、墓地などの宗教施設のために用いられる財産を破壊する特別の犯罪を規定している。ヘイト・スピーチについては1970年以来、刑法で対処している。刑法318条は、皮膚の色、人種、宗教、民族的出身又は性的志向によって「識別される集団」に対するジェノサイドの主張や促進を禁止している。刑法319条1項は、公共の場で平穏を侵害するような発言で、「識別される集団」に対する憎悪を扇動することを禁止している。刑法319条2項は、私的な会話以外の発言で、「識別される集団」に対する憎悪を恣意的に促進することを禁止している。国連人権理事会は普遍的定期審査(UPR)で、カナダに人種主義暴力に対処する立法を促したが、カナダは受け容れていない。カナダは人種主義暴力を通常の刑法で犯罪としている。暴行、傷害などの暴力行為は犯罪とされており、暴力行為の煽動も、暴力行為が実際になされたか否かを問わずに、犯罪とされている(独立教唆)。刑法718条2項(a)(i)は、刑罰加重事由として、犯罪が、人種、国民的又は民族的出身、言語、皮膚の色、宗教、性別、年齢、心身の障害、性的志向その他類似の要因に基づいた偏見、予断、憎悪に動機を持つ場合を掲げている。

Tuesday, May 28, 2013

ヘイト・クライム禁止法(19)

ポルトガル政府が人種差別撤廃員気に提出した報告書(CERD/C/PRT/12-14)によると、2007年9月4日の刑法改正がなされた。刑法240条の人種差別に動機を有する犯罪に、皮膚の色、民族、国民的出身、性別、性的志向などの形態の犯罪を追加した。ヘイト・クライムおよび「アウシュヴィツの嘘」規定が含まれる。条文は次のようになったが、<>部分が追加された部分である。                                                                          刑法240条 人種、宗教又は性的差別                                                                         1 (a)人種、<皮膚の色、民族的又は国民的出身>、宗教、<性別又は性的志向>に基づいて、人又は集団に対して差別、憎悪又は暴力を煽動又は鼓舞する団体を設立し、又は組織的宣伝活動を行った者、又は                                                                          (b)前項a)で述べられた団体又は活動に参加した者、又は財政拠出などの支援をした者は、1年以上8年以下の刑事施設収容とする。                                                                  2.公開集会、文書配布により、又はその他の形態のメディア・コミュニケーションにより、又は公開されるべく設定されたコンピュータ・システムによって、                                                                        (a)人種、皮膚の色、民族的又は国民的出身、宗教、<性別又は性的志向>に基づいて、人又は集団に対して、暴力行為を促進した者、                                                                          (b)人種、民族的又は国民的出身、宗教、<性別又は性的志向>に基づいて、特に戦争犯罪又は平和に対する罪及び人道に対する罪の否定を通じて、人又は集団を中傷又は侮辱した者、又は                                                                                  (c)人種的、宗教的<又は性的>差別を煽動又は鼓舞する意図をもって、<人種、皮膚の色、民族的又は国民的出身、宗教、性別又は性的志向に基づいて、人又は集団を脅迫した者は、6月以上5年以下の刑事施設収容とする。

侵略の定義について(9)

国際司法裁判所(ICJ)は、国連憲章第92条に基づく国連の主要な司法機関である。ICJは、国連総会、安保理事会、その他の国連機関などの要請に応じて法律問題についての勧告的意見を出す権限を有する。また、ICJ規程第36条に従って国家間の法的紛争について決定を下す。ICJでは、侵略の認定や紛争解決の権限について議論がなされた。というのも、安保理事会と国連総会の役割分担が重なっている可能性があったからである。国連憲章の解釈として国連機関のいずれが権限を有するかと言う問題である。詳細は省略。                                                                具体的な法的紛争としては、ニカラグア事件が有名である。ニカラグアは、アメリカが国連憲章第2条第4項の武力行使や威嚇の禁止に違反し、慣習国際法のもとでの責務に違反し、陸海空軍の攻撃によってニカラグアの主権を侵害したと主張した。アメリカは、ICJには管轄権がないと主張しつつ、自衛権を正当化根拠とした。ニカラグアはアメリカが侵略を行ったとまでは主張していなかった。しかし、ICJは『侵略の定義』を参照したうえで、国連憲章第2条第4項における武力行使の禁止について検討し、武力行使のもっとも重大な形態とその他の形態を区別するために国際法の検討を行った結果、『侵略の定義』第3条(g)にいう行為の記述は慣習国際法に反映されているとした。ICJは、慣習法においては、武力攻撃の禁止は、軍事行動がその規模や帰結において単なる国境紛争ではなく武力攻撃として特徴付けられるようなものであれば、ある国家が他国の領土に軍隊を送ることにもあてはまることを否定する理由はないとした。 ここで重要なタームが慣習国際法である。慣習国際法としての侵略の禁止について検討する必要が出てくる。この点は後日。                                                                             以上のように、国連安保理事会、総会、ICJなどで侵略の認定が行なわれ、その積み重ねの中で侵略の定義が確認されてきた。

侵略の定義について(8)

国連総会は、1947年11月29日の決議181(II)において、将来のパレスチナ政府に関連して、平和に対する脅威や侵略行為に言及した。その後も多数の決議が行われた。                                                                       1981年11月13日の決議36/27は、イスラエルによるイラクの核施設に対する攻撃を扱った。イラクの核施設に対する攻撃という前例のないイスラエルの侵略行為が国際平和と安全の重大な脅威であることに警鐘を発し、イスラエルがアメリカから提供された武器でアラブ諸国に対する侵略行為を行っていることに重大な関心を表明し、核施設攻撃を繰り返すという威嚇を行っていることを非難し、国連憲章に違反する前例のない侵略行為を強く非難し、核施設に対する武力攻撃や威嚇を中止するよう警告した。賛成109、反対2、棄権34である。                                                                            1982年11月16日の決議37/18は、イスラエルの侵略行為が危険でエスカレートしていることに重大な警鐘を発し、核施設攻撃の威嚇を続けていることに重大な関心を表明し、イスラエルの侵略行為や威嚇を強く非難し、核施設攻撃の威嚇の撤回を要求し、イスラエルの侵略行為は諸国の科学技術の主権の侵害と否定であると判定した。賛成119、反対2、棄権13である。                                                                     1981年12月17日の決議36/226Aは、イスラエルによるレバノン侵略と、都市村落の爆撃による破壊を強く非難した。賛成94、反対16、棄権28である。1980年代、国連総会は、パレスチナ人民の状況に関する多数の決議を繰り返した。1981年12月17日の決議36/226Aは、占領下パレスチナなどにおけるイスラエルの侵略は国連憲章と国際法原則に違反するとした。

Monday, May 27, 2013

ヘイト・スピーチ処罰実例(8)

エストニア政府が人種差別撤廃員会に提出した報告書(CERD/C/465/Add.1. 1.April 2005.)によると、報告書の対象時期で2004年7月までに、社会的憎悪の煽動に関連して公安警察によって捜査が行われた事件は1件だけであった。公安警察の任務は憲法秩序の保護である。公安警察は過激な運動や集団の違法活動を取り扱う任務を有している。NGO、マイノリティ集団の代表などによって、メディアや個人の言動の中で、国民、人種、宗教的憎悪が見られると指摘されている。公安警察は社会的憎悪の煽動や過激な運動について年次報告書を公表している。若者には、普通教育課程でこうした問題について教育が行われている。2003年6月17日、ナルヴァ市地裁判決は、スキンヘッド運動のメンバーであった複数の者が、国民的人種的憎悪を公然と行ったことで、刑事施設収容を言い渡した。刑法第134条及び第152条に関する刑事手続きがとられたことはない。2004年時点で、刑法第151条の社会的憎悪の煽動に関して3件の手続きがとられた。政府報告書執筆時点で、1件は裁判所の判断が下されたが、2件はまだ審理中であった。2004年秋、インターネットにおいて社会的憎悪の煽動を行ったとして起訴された人物の事例がある。捜査段階で、公安警察は、1995年から2003年までにインターネットで、国民的宗教的政治的信念に基づいた憎悪と暴力の公然たる煽動がなされた、と主張している。誰でも無制限にアクセスできるインターネット事例である。刑法第151条に基づいて起訴が行われたが、報告書時点では審理中である。

原発民衆法廷第8回熊本公判

5月25日、原発民衆法廷第8回熊本公判が開催された。

侵略の定義について(7)

侵略の認定は、安保理事会だけでなく、国連総会でも行われた。具体例としては、朝鮮戦争、ナミビア、南アフリカ、ギニアビサウ、中東、ボスニア・ヘルツイェゴヴィナなどがある。                                                                       1960年代から80年代にかけて、南アフリカがナミビアを占領したことに対して、国連総会は侵略であるとして何度も非難決議を行った。                                                                     1978年5月3日の決議S-9/2は、南アフリカによるナミビア不法占領はナミビア人民と国連に対する継続的侵略行為であることを強調し、南アフリカ占領当局の侵略政策がアンゴラやザンビアなど近隣諸国の領土に侵犯する侵略行為にあらわれていると述べた。賛成119、反対なし、棄権2であった。                                                                                  1981年12月10日の決議36/121A以後、国連総会は、南アフリカのナミビア占領は『侵略の定義』にいう侵略であるとした。南アフリカによるナミビアの違法な植民地占領はナミビア人民に対する侵略であり、国連当局に対する挑戦であることを強調し、『侵略の定義』の意味での侵略にあたると宣言し、南アフリカのナミビア占領を強く非難し、さらにアンゴラ、ボツワナ、モザンビーク、ザンビア、ジンバブエに対する侵略行為を告発し、アンゴラ侵略における主権と領土の侵犯を強く非難した。賛成120、反対なし、棄権27であった。国連総会はその後も8度にわたって同様の決議を繰り返した。それらの決議において反対投票をした国は一つもない。

Sunday, May 26, 2013

ヘイト・クライム禁止法(18)

人種差別撤廃委員会第80会期に提出されたメキシコ政府報告書(CERD/C/MEX/16-17. 7 December 2010)によると、2002年11月26日、差別予防撤廃法草案が作成され、2003年6月11日に採択された。法律に基づいて、2004年3月27日、差別予防国家委員会が設置された。差別予防撤廃法は29項目に及ぶ差別を列挙して、禁止している。次の行為も犯罪とされている。                                                  15.4条によって規定された状況で、メディアにおけるメッセージや映像を通じて、攻撃し、嘲笑し、暴力を促進すること。                                                            16.表現の自由を制限し、思想や宗教に関する良心を妨げること。                                                   27.憎悪、暴力、侮辱、嘲笑、名誉棄損、中傷、迫害、排除を煽動すること。                                                             28.個人の身体上の外観、衣装、会話、ジェスチャー、性的志向の公表を理由として心身の虐待を行うこと。                                                                                            29.一般に、条約4条のもとで差別的と考えられる行動。

侵略の定義について(6)

 1976年から1987年にかけて、安保理事会は、南アフリカによるアンゴラ、ボツワナ、レソト、セイシェルなどに対する侵略行為に関する一連の非難決議を採択した。                                              1976年3月31日の決議387(1976)は、南アフリカによるアンゴラに対する武力侵略に言及した。南アフリカがアンゴラに対して行っている主権と領土に対する侵略行為に重大な関心を表明し、侵略するためのナミビア領の利用を非難し、アンゴラ侵略による侵害や破壊に重大な関心を表明し、アンゴラに対する侵略を非難した。賛成9、反対なし、棄権5(仏伊日英米)である。                                                                       1984年1月6日の決議546(1984)は、南アフリカによるアンゴラ爆撃と部分占領に言及している。南アフリカの人種主義政権がアンゴラの主権、領空および領土に対して行っている爆撃や侵略行為に重大な関心を表明し、爆撃、軍事攻撃、占領による人命の悲劇的損失や破壊に悲しみを表明し、爆撃と占領によってアンゴラの主権を侵害し国際平和と安全に危険をもたらしていることを強く非難し、アンゴラには国連憲章第51条に従って自衛権を行使する権利があることを確認し、アンゴラには人命と財産の損失について適切な補償を求める権利があることを確認した。賛成13、反対なし、棄権2(英米)である。                                                                    1985年9月20日の決議571(1985)は、南アフリカがアンゴラに侵略行為と軍事侵略を繰り返し継続していることを取り上げ、1985年6月21日の決議568(1985)は、南アフリカによるボツワナに対する侵略を取り上げ、それぞれ、人命の損失や破壊に衝撃を受けたことを表明し、こうした侵略行為が南アフリカにおける危険な状況をさらに悪化させることに関心を表明した。全会一致で採択。

Thursday, May 23, 2013

侵略の定義について(5)

国連安保理事会における侵略認定の議論は、南ローデシア、南アフリカ、ベニン、チュニジア、イラクに関して行われた。安保理事会は、1970年代に、南ローデシアによるアンゴラ、ボツワナ、モザンビーク、ザンビアなどに対する侵略行為に関する一連の非難決議を採択している。                                                        1973年2月2日の決議326(1973)は、南ローデシアによるザンビアに対する侵略行為に言及している。南ローデシアにおける不法な政権が、ザンビアの安全と経済に対して行っている侵略行為によって作り出された状況に重大な関心を表明し、南ローデシアの状況が国際平和と安全にとって脅威となっていることを確認し、最近になって状況が悪化しているとし、侵略行為によって人命と財産の破壊が行われていることに深い衝撃を表明している。本決議は賛成13、反対なし、棄権2(英米)で採択された。                                              1979年11月23日の決議455(1979)は、南ローデシアが南アフリカと共謀してザンビアに行った侵略行為に言及している。ローデシアがザンビアの主権や領土に対して行っている敵対行為と侵略行為に重大な関心を表明し、南アフリカが共謀のもとに侵略行為を繰り返していることにも重大な関心を表明し、人命と財産破壊の悲劇に悲しみを表明し、南ローデシアによる悪意に満ちた侵略行為、人種差別主義的体制を確認し、強く非難し、南アフリカに対しても強く非難している。全会一致で採択された。                                           1973年決議は、国連『侵略の定義』(1974年)よりも前になされている。つまり、『侵略の定義』によって初めて侵略の定義が明らかになったと考えられてはいないことを意味する。

ヘイト・クライム禁止法(17)

ウクライナ政府が人種差別撤廃委員会に提出した報告書(CERD/C/UKR/19-21. 23 September 2010)によると、印刷メディア法第3条、テレヴィ・ラジオ放送法第2条、情報法第46条に、人種、民族又は宗教的憎悪を煽動するためにメディアを利用することを禁止する規定がある。                                                                   刑法第161条は、人種、民族、宗教に基づく市民の平等権侵害を犯罪としている。第161条1項によると、民族的、人種的又は宗教的敵意又は憎悪を煽動する目的、市民の宗教的信念と結びついて名誉と尊厳を引き下げ又は攻撃を惹き起こす目的を持った故意の行為、及び、人種、皮膚の色、政治的、宗教的又はその他の信念、性、民族的又は社会的出身、財産状態、居住地、言語又はその他の特徴に基づいて市民の権利を直接又は間接に制限すること、又は市民に直接又は間接の特権を与えることは、最低収入総額の50倍以下の罰金、又は2年以下の期間一定職務に就任する権利や一定の活動を行う権利の剥奪に処する、とされている。刑法第161条2項によると、上記の行為に暴力、詐欺又は脅迫が伴ったり、それが公務員によって行われた場合、2年以下の期間の懲罰的所得控除、又は5年以下の期間の自由剥奪に処する、とされている。両項に掲げられた行為が組織集団によって行われた場合、又は人の死又は重大な結果を惹起した場合は、刑罰は2年以上5年以下の期間の自由を剥奪する、とされている。刑法第67条1項(3)によると、人種、民族又は宗教的敵意による攻撃動機があった場合は、刑罰加重事由とされている。2009年11月5日の刑法改正により、刑法第115条2項の殺人罪、第121条2項の重大傷害罪などについても処罰加重規定が追加されている。

侵略の定義について(4)

第2次大戦後、国連憲章は紛争解決手段としての武力行使という考えを否定した。第1次大戦後の国際連盟のもとで達成した不戦条約が踏みにじられた経験をもとに、国連中心の集団安全保障体制をつくりつつ、不戦条約を継承・発展させて、武力行使の制限を試みた。国連憲章第2条第4項は「すべての加盟国は、その国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎まなければならない」とした。この条項の解釈は、安保理事会、国連総会、国際司法裁判所によって検討されてきた。国連における議論は、国際政治の対抗の中で行なわれ、東西対立をはじめとする緊張関係の中で進められたので、侵略という用語もきわめてイデオロギー的に使われた。そのため、法的意義については疑問が指摘されるが、議論の積み重ねを無視することはできない。                                                                                   国連憲章第24条によれば、安保理事会は国際平和と安全の維持に責任を有するので、国連憲章第39条に従って、平和に対する脅威、平和の破壊、侵略行為の存否を判断する権限を有する。また、国際平和と安全の維持または回復のために必要な手段を勧告し決定する権限を有する。そこで、安保理事会は侵略行為について議論を重ねてきた。次回からいくつか紹介する。

ヘイト・スピーチ処罰実例(7)

デンマーク政府が人種差別撤廃委員会に提出した報告書(CERD/C/DNK/18-19. 31 August 2009.)によると、2000~08年、検察官が捜査の必要なしとしたものが45件、いったん捜査に着手したが中止したものが30件、訴追撤回が24件あった。検察局が2008年4月に公表した報告書によると、2007年に判決が出た事例では、犯罪の全部又は一部が被害者の人種等に基づくものが8件、人種等に基づかなかったとされたのが2件であった。8件の多くは暴力が伴った事例であった。検察局によると、この報告書は、人種等に基づく犯罪の実態を表しているわけではない。人種的動機による疑いがあっても、その動機を刑事裁判で証明することができるとは限らない。被告人を特定できない事例もある。司法省とコペンハーゲン大学が行った2008年1月の犯罪被害年次調査によると、暴力被害者の6%は明らかに人種主義の帰結であり、4%はその可能性があった。強盗被害者の4%は人種主義によるものであり、5%はその可能性があった。

侵略の定義について(3)

『侵略の定義』は有名である。1974年12月21日、国連総会は、国連憲章に従って、安保理事会が侵略があるか否かを判断をするさいのガイダンスを提供するために『侵略の定義』決議3314(XXIX)を採択した。この決議は無投票で採択された。             決議は、侵略は違法な武力行使のもっとも重大で危険な形態であるとした。第1条は、侵略を「ある国家による、他国の主権、領土または政治的独立に対する、または国連憲章と合致しないその他の方法での武力行使」と定義している。第2条は、国連憲章に違反する武力の最初の行使は、侵略行為があることの一見して明らかな証拠であるとしている。第3条は、宣戦布告の有無に関わらず、侵略行為であることを特徴づける行為のリストを掲げている。                                                                     (a)ある国家による他の国家領土に対する武力による侵攻または攻撃、または、そうした侵攻に引き続く、一時的であっても軍事占領、または武力行使による他国領土またはその一部の併合。                                         (b)ある国家の軍隊による他国の領土に対する爆撃、または、ある国家による他国の領土に対する武器の使用。                                                  (c)他国の軍隊によるある国家の港や海岸の封鎖。                                          (d)ある国家の軍隊による他国の陸軍、海軍、空軍、海兵隊、空船隊に対する攻撃。                            (e)受入国との協定によって他国の領土に駐留する国家の軍隊の、その協定によって設定された条件に違反した行使、または、その協定の期限を越えての他国の領土における駐留の延長。                                                        (f)自国の領土を他国の自由に使えるようにして、第三国に対する侵略行為の準備のために他国に使用させる行為。                                           (g)ある国家の部隊、集団、不正規兵または傭兵の送出であって、上記に掲げられたものに匹敵する重大な他国に対する軍隊の行為をもたらすこと、またはそれへの実質的関与。                                                                    第4条は、この行為のリストは網羅的ではなく、安保理事会がその他の行為が国連憲章のもとで侵略であると判断することがあると認めている。第5条第1項は、政治、経済、軍事その他のいかなる性質の考慮も侵略を正当化しないとしている。

Wednesday, May 22, 2013

侵略の定義について(2)

1997年に採択された国際刑事裁判所(ICC)規程第5条は、ICCの管轄に服する犯罪を、ジェノサイドの罪、人道に対する罪、戦争犯罪、侵略の罪の4つとしている。ICC規程第6条から第8条は、ジェノサイド、人道に対する罪、戦争犯罪について詳細を定めている。ところが、ICC規程には「侵略の罪の定義」がなく、その定義は事後に検討することにされている。「侵略の罪の定義」はローマ全権外交官会議ではまとめることができなかった。定義を保留したまま、ICC規程本体を採択しておき、「侵略の罪の定義」は後の作業にゆだね、ICC締約国会議で要件を定めることにしたものである。ICC規程は侵略の罪を掲げてはいるが、現在は侵略の罪を適用できない。ICC準備会議において「侵略の罪の定義」作業が進められ、ICC発足後はICC締約国会議で議論が継続されている。――このことを持ちだして「侵略の定義はない」という主張がなされる。しかし、ここには初歩的な誤解がある。「国際法における侵略の定義」(A)は、1974年国連総会決議のような例がある。国際刑事裁判所規程で問題となったのは、単に「侵略の定義」ではなく、「個人の刑事責任を問うための犯罪規定としての侵略の罪の定義」(B)である。AとBとはまったくレベルの違う話である。Aの定義は存在し、しかも、これに対して国際社会で異論が唱えられていない。Bの定義は1997年にはまとまっていなかった。その後、議論が続いている。安部首相発言のごまかしの謎はここにある。

Tuesday, May 21, 2013

ヘイト・クライム禁止法(16)

グルジア政府が人種差別撤廃委員会に提出した報告書(CERD/C/GEO/4-5. 25 February 2011)によると、刑法第142条は、民族又は人種的理由に基づいて敵意や紛争を煽動する目的でなした作為又は不作為、並びに人種、皮膚の色、社会的出身、国民又は民族的アイデンティティに基づいてなされた直接又は間接の人権侵害、又は以上の理由に基づく個人の偏重を犯罪としている。作為とともに不作為の犯罪が掲げられているのは注目に値するが、具体例は必ずしも明らかではない。他人の作為によって人種差別煽動状況が作り出されているのを知りながら、容易にそれを止めることのできる立場の者が、不作為によってその状況を維持し続ける場合であろうか。また、間接の人権侵害も犯罪となることがありうることにも注意が必要である。重大犯罪に人種、宗教、国民的又は民族的理由が伴えば刑罰加重事由となる。

Monday, May 20, 2013

侵略の定義について(1)

安倍晋三首相の「侵略の定義はない。どちらから見るかで違う」という、日本の侵略を否定するための発言が世界を駆け巡った。欧米メディアだけではなく、アメリカ政府も反発する姿勢を示した途端、安倍首相は「日本が侵略していないとは一言も言っていない」と弁解をして、見事に膝を屈した。だったら最初からバカなことを言わなければいいのだが、内心では「侵略ではなかった」と叫んでいるのだろう。「村山談話を継承する」と言わざるをえなくなったが、それでも「21世紀の新しい談話を」と追加するのを忘れないのは、何が何でも村山談話を葬り去りたいということだろう。それはともかく、「侵略の定義」については、安倍首相の嘘をきちんと確認しておく必要がある。マスメディアでは、安倍発言ばかりがクローズアップされた。まともな国際法学者は、安倍首相のあまりの無知に呆れて、ほとんどコメントしない。まともな学者が沈黙するのも当然で、国連総会の「侵略の定義」決議(1974年)がある。もっとも、それを指摘しても、安倍首相とその取り巻きは同じ虚偽を言い続けるだろう。それはなぜか。その点も少し考えてみたい。また、この間のメディアを見ていると、初歩的知識のない人間が大声で事実に反する主張をしている。首相が率先しているためもあり、誤った認識が広められている。そこで、今回から「侵略の定義について」と題して数回、関連情報をアップすることにした。なお、主要な内容は、前田朗『侵略と抵抗』(青木書店、2005年)に書いた。                                                    **********************************                                                 侵略の定義は何かを論じる前に、確認しておくべきことがある。というのも、安部首相は「侵略の定義はない。まとまっていない」と言うが、侵略の定義を明らかにすることを考えているわけではない。日本の侵略をごまかすことが目的である。だから、本当に定義があるかないかを問題にしているのではない。この点を見ておかないと、議論が混乱する。重要なのは、「さまざまな侵略の定義があったとして、それらのどの定義を採用しても、日本の侵略は明らか」と言うことだ。

ヘイト・スピーチ処罰実例(6)

ボスニア・ヘルツェゴヴィナ政府が人種差別撤廃委員会に提出した報告書(CERD/C/BIH/7-8. 21 April 2009.)によると、刑法第163条(憲法秩序に対する犯罪)について検察庁が扱った事件は4件あり、うち2件が実際に手続きに入り、1件は捜査中、もう1件は有罪答弁が行われて終結した。連邦警察は、2005年から2007年にかけて、刑法第163条、第166条(人種的国民的宗教的理由による殺人)、第177条(人種的国民的理由による個人の平等侵害)について34件の事案を扱った。ただし、事案の具体的内容は紹介されていない。禁止法の状況については、本ブログの「ヘイト・クライム禁止法(9)」を参照。

Sunday, May 19, 2013

ヘイト・クライム禁止法(15)

チェコ政府が人種差別撤廃委員会に提出した報告書(CERD/C/CZE/8-9. 9 August 2010.)によると、2009年の法律第40号によって刑法が改正され、人種的動機による犯罪に追加がなされた。1961年法律第140号の刑法第196条は、2009年法律によって第352条になり、「住民及び個人に対する暴力」の罪は、人種、民族、国民その他の集団構成員であることに動機を有する犯罪となった。刑法第198条の「国民、民族集団、人種及び信念の中傷」の罪は、改正によって刑法第355条「国民、人種、民族その他の人の集団の中傷」の罪となり、犯罪実行方法に、印刷された言葉、フィルム、ラジオ、テレヴィ、公にアクセスできるコンピュータ・ネットワークその他の効果を有するもの、が加えられた。集団侮辱罪である。刑法第259条のジェノサイドの罪は刑法第400条となり、対象に階級その他同様の集団が加えられた。これは国際法上のジェノサイドには含まれていない。刑罰の上限は20年以下の刑事施設収容に加重された。ジェノサイド実行の公然たる煽動の刑罰も20年である。

Saturday, May 18, 2013

うかうか三十、ちょろちょろ四十

昨日は新宿・紀伊國屋サザンシアターでこまつ座公演「うかうか三十、ちょろちょろ四十」(井上ひさし作、鵜山仁演出)だった。                                               http://www.komatsuza.co.jp/contents/performance/                                                           井上ひさし24歳の演劇デビュー作。もっとも、当時は上演されなかったし、こまつ座でも上演は初めて。井上ひさしらしく、東北地方の農村を舞台にし、セリフもすべて東北弁。ただし、どの地方の言葉ということではなく、東北各地の言葉をごっちゃにしているという。このところ、こまつ座での井上作品のお演出は、蜷川幸雄、栗山民也、鵜山仁が競い合っている。いずれも井上作品に習熟し、井上作品を愛し、徹底的に、これでもかと観客を楽しませる演出家だ。今回も、鵜山仁は、農村の貧しい農家を舞台の中央に据え付け、物語の展開に応じて農家をぐるりと回して見せる。3幕の短い演劇だが、後の井上作品を予感させるほのぼのした情景で、くすくす笑わせ、どっと笑わせ、暗転して悲劇になってもやはり笑わせる。坂口安吾の『桜の森の満開の下』ほどのスリリングな展開ではなく、物語が静かに進み、静かに終わるが、人間存在につきまとう悲哀を主題としている点は共通している。どんでん返しは単純だが、最後に人生の怖さを突き付けて、終わる。最後の仕掛けも、また楽しい。終演後に、藤井隆、福田沙紀、鈴木裕樹、田代隆秀、小林勝也によるトークもあった。観劇後は新宿西口の紀州料理。

Friday, May 17, 2013

ヘイト・スピーチ処罰実例(5)

チュニジアが人種差別撤廃委員会に提出した報告書CERD/C/TUN/19. 17 September 2007.によると、2005年3月28日、チュニス控訴裁判所は、被告人に3年の刑事施設収容を言い渡した原審判決を支持した。被告人は、2004年10月5日、ノーマライゼーションと「シオニズム化」と闘う委員会の主張に基づいたパンフレットを準備し、配布した。パンフレットは、ユダヤ人に反対し、いかなる形であれユダヤ人との協議に反対し、ユダヤ人との和解に反対して人々が立ち上がるように訴えるものであった。2004年9月28日、国連恣意的拘禁作業部会は、本件について、国際自由権規約第19条と第20条に違反するか否かを検討し、被告人の行為は犯罪であり、意見表現の問題ではないとした。

ヘイト・クライム禁止法(14)

アルバニアが人種差別撤廃委員会に提出した報告書CERD/C/ALB/5-8. 6 December 2010.によると、2008年11月27日、刑法改正が行われた。刑法第84条(a)は、「コンピュータ・システムを用いた人種主義及び外国人嫌悪の動機を伴った脅迫」について、人の民族的所属、国籍、人種又は宗教のゆえに、コンピュータ・システムを用いてなされた、人に対する殺人や重大傷害の脅迫は、罰金、又は3年以下の刑事施設収容とする。刑法第119条及び119条(a)は、人種主義又は外国人嫌悪の内容を持つ文書をコンピュータ・システムを用いて公に配布し又は配布しようとした者は、罰金、又は2年以下の刑事施設収容とする。刑法第119条(b)は、民族的所属、国籍、人種又は宗教ゆえに、コンピュータ・システムを用いて、人に対して公になされた侮辱についても同じ刑罰を定めている。2008年改正は、これらの人種主義犯罪がコンピュータを通じて行われた場合の規制を定めており、コンピュータによらず、口頭や文面で行われた場合については、それ以前から定められていた。たとえば、ジェノサイド(刑法第73条)、人道に対する罪(刑法第74条)、国民の平等の侵害(刑法第253条)、国籍、人種及び宗教間の憎悪や紛争の煽動(刑法第265条)、国民的憎悪の呼びかけ(刑法第266条)である。

Thursday, May 16, 2013

ヘイト・スピーチ処罰実例(4)

フィンランド政府が人種差別撤廃委員会に提出した第19回政府報告書CERD/C/FIN/19. 15 October 2007.によると、インターネット上の人種主義文書の書き手を特定することには困難があり、差別文書を削除することも困難である。明らかに犯罪的な内容を有するメッセージを公開しないようにできなかったオペレータも正犯又は共犯の責任を問われることがある。一定の条件のもとでは、編集者が管理責任を果たさなかったために、マスメディア表現の自由法第13条によって、罰金を言い渡されることもある。しかし、同法はフィンランド国内の事件にしか適用できないので、外国のサーバーを通じて入ってきた差別文書に適用できない。実際、多くの差別文書がアメリカ合州国から発せられている。 次に、民族アジテーションに関する判例である。刑法第11章第8節に規定された民族アジテーションの事案はまれである。2006年には「マイノリティのためのオンブズマン」がインターネット上の事案について40件の捜査を要請した。同年末時点で、そのうち15件は中央検事局による捜査中である。2005五年には9件であった。 2002年1月から2006年9月までに、民族アジテーション事案の判決は2件である。1件は訴追が却下された。もう1件では、被告人はヘルシンキ控訴審によって300ユーロの罰金を言い渡された。判決理由によると、ユダヤ人を侮辱するように唆す反セミティズムの印刷物は、宗教を攻撃して汚したものであり、それゆえ民族アジテーションの行為であったと判断された。

ヘイト・クライム禁止法(13)

ルーマニアが人種差別撤廃委員会に提出した第16~19回報告書によると(CERD/C/ROU/16-19. 22 June 2009.)、人種差別撤廃条約第4条に関連する立法は4つに分類できる。第1に刑法、第2にファシズム・シンボル禁止法、第3に「アウシュヴィッツの嘘」法、第4にオーディオ・ヴィジュアル法である。憲法第30・7条は、国民、人種、階級、宗教的憎悪の煽動と、差別の教唆は法律によって禁止されるとしている。 第1に、2006年の法律278号によって改正された刑法第317条は、差別の教唆を次のように定義している。人種、国籍、民族的出身、言語、宗教、ジェンダー、性的志向、意見、政治的関係、信念、財産、社会的出身、年齢、障害、慢性の非伝染病又はHIVを理由とする憎悪の教唆。差別の教唆は、6月以上3年以下の刑事施設収容又は罰金を課される。 第2に、ファシズム・シンボル法(2002年の緊急法律31号)は、ファシスト、人種主義者、外国人嫌悪の性質を持った組織とシンボル、平和に対する罪や人道に対する罪を犯した犯罪者を美化することを禁止した。2006年法律107号と同年法律278号によって一部修正されている。この法律第2条(a)によると、ファシスト、人種主義者、外国人嫌悪の組織とは、3人以上によって形成された集団で、一時的であれ恒常的であれ、ファシスト、人種主義者、外国人嫌悪のイデオロギー、思想又は主義、民族的、人種的、宗教的に動機付けられた憎悪と暴力、ある人種の優越性や他の人種の劣等性、反セミティズム、外国人嫌悪の教唆、憲法秩序又は民主的制度を変更するための暴力の使用、過激なナショナリズムを促進するものである。これには、組織、政党、政治運動体、結社、財団、企業、その他の法律団体で、前記の定義の要素に合致するものも含まれる。第2条(b)によると、ファシスト、人種主義者、外国人嫌悪のシンボルとは、旗、紋章、バッジ、制服、スローガン、公式・決まり文句の挨拶、その他のシンボルで、前記の定義で述べられた考え、思想及び主義を促進するものである。(「公式・決まり文句の挨拶」とは「ハイル・ヒトラー!」のようなものを指しているのであろう。)第3条によると、ファシスト、人種主義者、外国人嫌悪の組織の設立は、3年以上15年以下の刑事施設収容及び一定の権利停止である。組織への参加や支援も同じ刑罰が定められている。ファシスト・シンボルの配布、販売、その準備は、6月以上5年以下の刑事施設収容と一定の権利停止である。シンボルの公の場での利用も同じ刑罰である。公の場におけるプロパガンダ、行為、その他の手段による、平和に対する罪や人道に対する罪を犯した犯罪者の美化、ファシスト、人種主義者、外国人嫌悪のイデオロギーの促進は、3月以上3年以下の刑事施設収容及び一定の権利停止である。プロパガンダ概念は、新たな信奉者を説得し、魅了する意図をもって、考え、思想又は主義を組織的に広め又は正当化することである(第5条)。 ルーマニアには「アウシュヴィッツの嘘」法もあるが、これについては後日紹介する。