Sunday, December 01, 2013

部落差別を反省することとは

宮崎学・小林健治『橋下徹現象と部落差別』(モナド新書、にんげん出版)――1年前に出た本だが、見落としていた。『週刊朝日』と佐野眞一による部落差別は、橋下徹大阪市長による抗議の結果、『週刊朝日』側の謝罪によって決着がついた形になっている。しかし、本書が取り上げているように、『週刊朝日』以外に、『新潮45』『週刊新潮』『週刊文春』などが橋下徹に対するネガティヴ・キャンペーンを展開して、部落の出自を取り上げていた。『週刊朝日』事件が浮上した際には、少なからざる知識人・文化人が『週刊朝日』擁護の発言をしていた。何が問題なのかを理解していない。部落差別であること、そして差別による具体的な被害が出ていることを無視した議論をする例が見られた。本書はそうした事例も取り上げて、「橋下徹の政治手法は厳しく批判するが、部落差別は許さない、従って部落差別問題については橋下徹と連帯して『週刊朝日』を徹底批判する」という姿勢に貫かれている。『週刊朝日』の記事「ハシシタ 奴の本性」が2012年10月26日号で、本書は2か月後の12月25日出版なので、緊急出版であるが、新書268頁の内容は充実している。私は雑誌『マスコミ市民』2013年1月号に「差別を反省することとは」を書いて、佐野眞一を批判し、次のように書いた。「部落差別や人種・民族差別をめぐる意識のありようを見ると、この国では何も変わらない。決して変わろうとしない鈍感な精神が蔓延しているように思えてならない。問題記事の筆者・佐野眞一は『週刊朝日』の連載中止と謝罪の後に反省の弁を語っていたが、果たして問題の所在をきちんと理解しているのかどうか、残念ながらあやしいと言わざるを得ない。」今も同じだと思う。佐野だけでなく、メディアも相変わらずという印象だ。その後、ザイトクによるヘイト・デモが大きな話題になったが、そこでも差別と暴力による被害を矮小化している。差別がなぜ許されないのか、なぜ問題なのか、本書をしっかり読むべきだろう。なお、差別と剽窃の佐野眞一については、次の本も重要。溝口敦他『ノンフィクションの「巨人」佐野眞一が殺したジャーナリズム 大手出版社が沈黙しつづける盗用・剽窃問題の真相』 (宝島NonfictionBooks)。