Tuesday, December 10, 2013

腐敗司法にメスを入れた小説

黒木亮『法服の王国 小説裁判官(上・下)』(産経新聞出版)――「人権の守護神か?非常の判決マシンか? これが裁判官の実態だ!」「最高裁判例を打ち破れ! 原発に下された『世紀の判決』とは!?」。地裁所長による裁判干渉、司法修習生の任官拒否、現職裁判官の再任拒否など、騒然とした70年代の司法反動に始まり、その後の司法統制、司法の官僚化、そして国民無視判決の続出に至る司法の病理はなぜ帰結したのか。民主的司法を求める法律家の間では常識だが、一般には知られざる司法の腐敗を、本書は小説という形で見事に描いている。腐敗司法を批判する側を描くのではなく、腐敗のただ中で暗躍し、格闘する司法官僚の世界を舞台に、人間模様を描き出している。最高裁長官、最高裁判事、最高裁調査官、事務総局の官僚を中心に、裁判所内における思想差別も抉り出す。差別された裁判官の不安や、闘いもしっかり取り上げている。そして、司法反動の時期に、まさに全国に広がり始めた原発、そして原発反対運動、原発訴訟も並行して描く。司法反動と原発とは、結びつかないように見えて、実に直結していた。そして、最高裁判例を打ち破ったのは、差別された裁判官であり、司法反動に挑んだ弁護士たちの努力であった。最高裁の闇を、原発訴訟でいえば、伊方や志賀の闘いが突き破る。史上初の原発停止命令はこうして実現した。そこまで射程に入れた構想が素晴らしい。――再任拒否や任官拒否問題では、知り合いの弁護士たちが続々と実名で出て来るので、本人の顔を思い出しながら、実に楽しく読むことができた。元青年法律家協会東京支部長で、今もいちおう青年法律家協会会員の私としては、いろんな愉しみ方のできる本である。