Sunday, February 09, 2014

消費者がデザインするとは

柏木博『デザインの教科書』(講談社現代新書、2011年)                                                                          「わたしたち消費者は、ただ受け身なだけではない。わたしたちはものを選択し、そして自らの生活の中で組み合わせ、つまり編集し、そしてときにはつくりかえていく。また、そうした日常生活の実践をより豊かなものに、またより心地良いものにするために、デザインとはどういうものかを見ておくことが、少なからず手がかりを与えてくれるはずだ。」                                                                 本書はデザイナーを目指す人のための「教科書」ではなく、一般消費者が暮らす中で選択し、消費する製品、ものをデザインの観点で理解し、暮らしに生かす観点での「教科書」である。もちろん、近代のデザインとは何であるのか、とりわけ20世紀をつくったデザインとはどのようなものであったかの基礎知識も提示している。そして、現代の問題として、貧困解決とデザイン、生き延びるためのデザイン、ユーモアを持った器用人のデザインという観点を提示する。著者の初期の著作を貫いていた思想が発展させられて、一般向けに簡潔に解説されている。                                                                               初期の著作とは、『日用品のデザイン思想』『道具の政治学』などのことだ。著者にはもう一つ、『欲望の図像学』『肖像のなかの権力』に発する思索があるが、いずれも人とものとの相互関係・相互作用を、手に取る、暮らす、といったレベルで読み解くとともに、日常生活やさりげないデザインに表象される権力作用も解明してきた。                                                                                   著者は現在、武蔵野美術大学教授だが、かつて6年ほど同僚だったことがある。博学で話術もすぐれているが、物事を見る視線がシャープで、加えてさっぱりした人柄もあって、学生にも人気だった。