Tuesday, July 01, 2014

レイシズムの社会学に学ぶ(2)病理現象を合理的に研究するために

樋口直人『日本型排外主義』(名古屋大学出版会、2014年)                                                    
「序章 日本型排外主義をめぐる問い」で、著者は、現在の排外主義運動の3つの源流を、既成右翼の一部、歴史修正主義的な右派市民運動、ネット右翼に求めている。「『右翼崩れ』からノウハウを、歴史修正主義から係争課題を、インターネットからネット右翼という動員ポテンシャルを得てきた」という。その上で、在特会はなぜ急激に勢力を拡大できたのかを問い、誰が、なぜ、いつ、何を、いかにして、動員/支持/敵視するのかを解明しようとする。                                                            
在特会については安田浩一の優れたルポ『ネットと愛国』があり、多くの論者は、安田の情報に依拠し、安田の仮説をかなりの程度受け入れてきたが、著者は安田の調査を評価しつつも、安田の仮説に疑問を呈する。例えば、在特会メンバーは非正規労働者、経済生活の不安定な人、「しんどうそうな人々」であるというイメージについて、著者は、それが「チーム関西」については当てはまるかもしれないが、他を見ると、むしろ高学歴だったり、中産階級的な人物も多いと言う。運動参加も、承認欲求やうっぷん晴らしや、「孤独や不安定を抱えた者がイージーなナショナリズムに絡め取られていく」というイメージに、著者は疑問を呈す。さらに、運動参加者の政治的イデオロギーを過少評価する傾向にも批判的である。                                                                              
そこで著者は、「今になってなぜ多くの者が『特権』なるものを信じるに至ったのか」と問う。というのも、在日朝鮮人は長い歴史を持つにもかかわらず、なぜ、今、「在日特権」などという虚構が運動を伸張させているのかを解明するには、これまでの仮説では不十分だからである。著者は「第一に個人レベルについては、『在日特権』なるフレームを活動家たちが受容する過程とその基盤を可能な限り詳細に分析する」。不満や不安を直ちに運動参加の動機とみるのではなく、活動家の認知過程を明らかにして、不満や不安がいかなる排外主義のイデオロギー的基盤となるのかである。「第二に、社会レベルでは『在日特権』ナルフレームが生み出される背景を分析する」。「在日特権」という言葉よりも、その根幹にあるより包括的なイデオロギーを見るのである。それは「外国人問題」や「東アジア地政学」へと連結することになる。                                                                   
著者は序章を「『通常の病理』から『病理的な通常』へ」とまとめる。在特会を特殊な病理的現象としてしまうのではなく、極右・排外主義について「病理的な現象だが通常の民主主義の一部とみなす研究」にならって、「『在日特権』なるデマによって排外主義運動が組織されることも、単なる非合理な病理としてではなく、可能な限り合理的な説明を試みる」という。                                                                       

在特会のデマ垂れ流しと異常な理屈に驚いた私たちは、在特会を異常な病理集団として片づけてしまいがちである。しかし、著者は、いかに病理的であっても、それがいかなるイデオロギーによって成り立ち、いかなる「論理」、いかなる運動論によって現実化しているかを明晰に分析するべきだと唱える。