Wednesday, July 16, 2014

レイシズムの社会学に学ぶ(8)理論と実証と歴史と

樋口直人『日本型排外主義』(名古屋大学出版会、2014年)                                    
樋口は「エピローグ」において、人口1600人ほどの与那国町における2010年3月の町議会の外国人参政権反対決議を素材に、「外国人参政権と自衛隊配備」における「神話」と「現実」を問い返す。                                      
「『脅威』に乗じる安全保障の論理をひとたび受け入れてしまうと、『国境』はあらゆる場所へと広がって社会全体を統制する原理となっていく。そして北朝鮮との緊張関係が焦点化したとき、朝鮮籍の人たちに対する抑圧を当然のごとく受け入れてしまう『実績』を、日本社会はすでに作ってしまった。」                                  
戦争責任や植民地支配の清算を怠ってきた日本はいまや開き直って責任の隠蔽に余念がない。このことがアジア各国に「文化的トラウマ」の政治化を呼び起こしている。「にもかかわらず、対外的に謝罪した直後に国内向けの妄言が飛び出る『国辱もの』の学習能力の欠如が、近隣諸国との関係をこじらせ、その延長に日本型排外主義がある」と樋口はまとめる。                                                   
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以上、日本型排外主義の社会学的分析に学んできた。感想を若干追加しておこう。                       
第1に、最新の社会学理論を駆使して、日本型排外主義を綿密に分析する手法は斬新であり、学ぶべき点が多い。著者が厳しく批判する素朴な実感主義レベルの理解をしている私としては、耳が痛いところも少なくない。それだけ大いに勉強になった。                           
第2に、本書の特徴は理論と実証の見事なバランスであり、ていねいな調査である。多数の在特会会員へのインタヴューをはじめとして、データをきっちり集めて、そこに鋭利な理論を適用する手法である。                                                
第3に、理論分析も、欧州の理論を借用するだけではなく、日本の歴史と現在を的確に踏まえて理論の応用に努めている。鋭く手堅い研究だ。                                     

本書の結論は、東アジアにおける日本の歴史と現在そのものに日本型排外主義の真因を求めるものである。日本による侵略と植民地支配の責任を取っていないことが、現在のレイシズムとヘイト・スピーチの原因であることは従来から指摘されてきたことであり、目新しくはないが、本書は、結論に至る論理過程をめんみつに検証して提示しているところが重要である。