Saturday, July 12, 2014

差別団体に公共施設を利用させてよいか(1)

差別団体に公共施設を利用させてよいか(1)                  
――門真市ルミエール事件をめぐって                      
*『統一評論』14年8月号・9月号掲載予定原稿                
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一 はじめに――門真市ルミエール事件              
二 問題の所在                            
三 日本国憲法に照らして考える                    
四 人種差別撤廃条約に照らして考える                 
五 ヘイト団体の認定は可能か                      
六 おわりに――条例の意義と射程                   
                                    
一 はじめに――門真市ルミエール事件                  
                                     
 本年四月一九日の『毎日新聞』は「門真市:ヘイトスピーチお断り! 排外主義団体に 条例活用し市施設使用規制」と題して「特定の人種への差別を扇動するヘイトスピーチ(憎悪表現)を繰り返す排外主義団体への対策として、門真市は既存条例を活用し、公民館や公園など市施設を使わせない方針だ。『規制する法律や条例がない』として、多くの自治体が施設の利用を認めているが、同市人権政策課(今月から人権女性政策課)は『ヘイトスピーチを差別ととらえれば当然の対応』としている」と報じた。                                           
 門真市は、人間の尊厳と権利の平等をうたった「門真市人権尊重のまちづくり条例」や、門真市都市公園条例が使用不許可の要件とする「集団的に又は常習的に暴力的不法行為等を行うことを助長するおそれがある組織の利益になると認めるとき」などの条項を適用して、在特会の使用申請を却下した。デモの集合場所やイベント会場となる市施設や公園などの使用制限や許可取り消しの方針を明確にした。施設管理者や職員を対象にした研修も始めたという。                                        
 『毎日新聞』に「排外団体特定は難しい」とのコメントを寄せた憲法学者の奈須祐治(西南学院大学教授)は「関西空港反対派に市が集会使用を拒否した泉佐野市立市民会館事件の最高裁判決(一九九五年)で、集会場の使用拒否は『明らかに差し迫った危険の発生が具体的に予見されることが必要』との判断を示しており、従来の判例で考えると、自治体が排外主義団体に特定して施設を貸さないというのは難しいのではないか」と述べている。                              
他方、刑法学者の金尚均(龍谷大学法科大学院教授)は「街頭でヘイトスピーチを繰り返す行為は、日本が批准する人種差別禁止条約に基づく不法行為にあたる。一般的に市施設の使用制限は、表現の自由との関係で難しいが、京都朝鮮第一初中級学校事件の京都地裁判決で『人種差別に該当し、違法』と指摘された在特会のような集団に限った事前規制は可能ではないか」と述べている。                                         
 門真市の事案は次のような経過をたどった。                                                        
 四月一四日、在特会のKが「朝鮮人は糞を食う民族だ」という差別集会(五月一一日予定)開催のため、ルミエールホール(門真市民文化会館)の使用申請を行い、ルミエールホール側が使用許可を出した。その後、Kは集会開催をインターネット上で宣伝した。                                       
 四月一五日、このことを知ったある市議会議員が市当局に問い質し、許可を取り消すように求めた。市側は、いったん使用許可を出したこともあってか、不許可にすると集会の自由の侵害になりかねないと考えたようで、当初、使用許可取り消しはできないと判断した。これに対して市議会議員が、当該集会が人種差別、人権侵害に当たること、在特会は人種差別行為を繰り返してきたことなどを指摘して、不許可とするように求め続けた。                                   
 その結果、四月二八日、許可取り消しの方向に決まり、五月二日、ルミエールの指定管理者からKに対して「利用許可の取り消し通知」を送付した。併せて『門真市教育委員会の考え方について』が明らかにされた。『門真市教育委員会の考え方について』(二〇一四年五月二日)は次のように述べている。                                                                  
「本市教育委員会としましては、門真市民文化会館が多くの市民に利用される施設であるため、本利用許可に反対の立場をとる者の妨害行為等により、他の利用者の安全確保が図れないことを危惧するとともに、いかなる団体であれ、人権、民族、門地など人が生まれながらにして持ち、自ら選択する余地のない点や国籍などの属性を捉まえての差別行為は許されないという姿勢に立ち、多くの子どもたちも利用する文化・教育の拠点である施設として、受け入れるべきではないという考え方であります。本施設の指定管理者にも、市民目線に立った総合的な判断のもと、教育委員会の考え方と軌を一にした対応を求めます。」                                                                             
前段の「本利用許可に反対の立場をとる者の妨害行為等により、他の利用者の安全確保が図れないことを危惧する」の部分は、第三者による妨害のための混乱を恐れるという姿勢であり、疑問がある。しかし、それに続いて「いかなる団体であれ、人権、民族、門地など人が生まれながらにして持ち、自ら選択する余地のない点や国籍などの属性を捉まえての差別行為は許されないという姿勢」を明示し、「多くの子どもたちも利用する文化・教育の拠点である施設として、受け入れるべきではない」としている点が重要である。以上が門真市ルミエール事件の経過である。                                                                            

 差別団体(排外主義団体、ヘイト団体)による施設使用については、山形県が二〇一三年六月、図書館などが併設されている県生涯学習センターでの在特会会長の講演会を、「図書館が併設され児童生徒が出入りする施設」であることを理由に不許可とした例がある。しかし、多くの自治体は施設利用を認めてきた。警視庁は、新大久保などのヘイト・デモについて「法的根拠がないから規制できない」と表明した。東京・豊島区等では、市民からの批判にもかかわらず、差別団体に公共施設を利用させてきたことが知られる。行政による表現規制につながりかねないという危惧が理由とされてきた。