Thursday, February 19, 2015

大江健三郎を読み直す(39)初期大江方法論の記念碑

大江健三郎『文学ノート 付=十五篇』(新潮社、1974年)
本書は初めて読んだ。当時、手にした記憶がない。
『洪水はわが魂に及び』(新潮社、1973年)の「創作ノート」である。「現に仕事をすすめている作家の意識について、また僕がしばしば使ってきた言葉をもちいるなら。単なる意識をこえたところの意識=肉体について書いたもの」であり、「実際にその小説を書いている自分自身を分析した臨床報告」である。本書前半は、作品を執筆中の大江自身についての省察である。後半は「付=十五篇」で、作品執筆の中で書いたものの結局作品には収められることのなかった断片が収められている。
若手新進気鋭の作家として活躍してきた大江は、『万延元年のフットボール』において「戦後文学」の継承者としての地歩を確立し、続いて『洪水はわが魂に及び』で長篇小説の方法論を固めた。その過程での思考=試行錯誤を「創作ノート」として公開し、「これから新しく小説を書く人びとのために、また作家の意識=肉体に深くかかわりながら小説を批評しようとする人びとのために有効であることを、僕は希望する」と述べる。

もっとも、本書の思考はまだサルトルの影響下にある。サルトルの影響を受けつつも、大江なりの方法論を模索している様子が見えてくる。数年後に大江は大きな変貌を遂げることになるので、ここで確立した方法論がそのまま適用された小説は『洪水』のみだったことになる。『ピンチランナー調書』以後の大江は、本書とは切れている。その意味で初期大江の方法論の記念碑と言って良いだろうか。