Wednesday, February 04, 2015

鶴橋は今日も元気だ!

李信恵『#鶴橋安寧――アンチ・ヘイト・クロニクル』(影書房)
辛い本だ。悲しい本だ。でも優しい本だし、笑える本でもある。
辛い本だ。ヘイト・クライム/ヘイト・スピーチの吹き出す日本という悲惨な現実を前に、一番辛いのが被害を受ける人々であることは言うまでもない。加害側のコミュニティの一員でもあることは私にとってつらい事実だ。被害者の辛さと並べられる話ではないが。同じ意味で、悲しい本だ。
在日朝鮮人に対するヘイト・スピーチの被害者である著者は、現場で取材を重ねるうちに名前を特定されて個人に対するヘイトのターゲットにされた。二重のヘイト・スピーチを全身に受け、悩み、泣き、煩悶し、立ち上がることになった。苦悩の日々をつづった本書は、的確な日本社会論となっている。ヘイトとの闘いの日々を記録した本書は著者の叫びでありながら、呟きであり、時にジョークを交えた優しい微笑でさえある。笑えるが、同時に涙が出る。
美しい本だ(何しろ著者は美しい、と本人が書いている)。エレガントな本だ(とにかく著者はエレガントだ、と本人が書いている)。だから、間違いない。
京都朝鮮学校襲撃事件、新大久保のヘイトデモ、櫻チャンネル――数々の現場で在特会という勘違い集団の愚劣かつ卑劣な差別に直面しながら闘う著者は、逃げたい心をおさえながら、たじろぐことなく(実はおおいいにたじろぎながら)、差別に走った少年の身を案じたりしながら、差別を煽る破廉恥を猛烈に指弾しながら、それでもユーモアを忘れず、歩き、書き、語り、泣き、笑い、走り、ついにヘイト・スピーチ糾弾のため裁判を起こすにいたった。そしてさらに被害を受けた。
出会いも楽しい。安田浩一、上瀧浩子、豊福誠二、金尚均、野間易通らとは私もおつきあいさせてもらってきた。いずれも差別との闘いのど真ん中を駆け抜けてきた尊敬すべき強者(つわもの)たちだ。
著者は最後に問いかける。
「傍観者でいられる時代は、もう終わった。後悔しないために今、きちんと立ち上がろう。そして、叫ぼう。『この社会に、差別はいらない』。ヘイトスピーチが街中で叫ばれているこの時代を、いつの日か笑い話にするために。今、あなたができることは何ですか?」

マルティン・ルーサー・キング牧師の「私には夢がある」と同じ思想を、著者は平易な言葉で紡いできた。