Saturday, July 25, 2015

大江健三郎を読み直す(46)グロテスク・ファンタジーの試み

大江健三郎『現代伝奇集』(岩波書店、1980年)
「頭のいい『雨の木』」、「身がわり山羊の反撃」、「『芽むしり仔撃ち』裁判」の3作品を収録した短編小説集である。出版時、すぐに読んだつもりだったが、今回読み直してみて、「『芽むしり仔撃ち』裁判」を本当に読んだかどうかは怪しい感じがした。結末の転換をまったく記憶していないからだ。30年以上前に一度読んだきりだから、単に忘れただけかもしれないが、『芽むしり仔撃ち』の読者が「『芽むしり仔撃ち』裁判」に一番の関心を持って本書に向かったはずにもかかわらず、肝心のところを記憶していない。読みかけて中途で放棄したのかもしれない。そうだとすれば、おそらく変容過程にあった当時の大江文学の独特の分かりにくさが影響したのだろう。

『小説の方法』と『同時代ゲーム』で打ち出された大江世界を、その都度、書き換え、書き直していくようになる大江の手法はこの時期に本格化したはずだ。『個人的な体験』から『ピンチランナー調書』を経て、その後に至る変容と同様に、この時期の大江は、大きくではないものの、常に変容し続けていた。「雨の木」の着想がここから始まり、四国の森の奥からメキシコへ渡った偽医師の物語と、『芽むしり仔撃ち』の二組の 「兄」と「弟」の兄弟が交錯する物語。キーワードは「グロテスク」だ。