Saturday, August 22, 2015

戦争法案と闘う渾身の理論書

拡散する精神/委縮する表現(52):『マスコミ市民』2015年7月号

 集団的自衛権を柱とする戦争法案と闘う渾身の理論書が出た。水島朝穂『ライブ講義徹底分析 集団的自衛権』(岩波書店)である。
集団的自衛権の解説書や批判的検討の書は既に数冊出ているが、一人の著者が徹底分析を加えた著書としては質量ともに本書が群を抜いている。
 安倍政権がなりふり構わず成立を急ぐ戦争法案(「安全保障関連法制」)をめぐる国会審議は、言葉を破壊し、常識を捻じ曲げることの繰り返しである。戦争を平和と呼び、戦闘地域を非戦闘地域と呼び、違憲を合憲と呼ぶのは自民党政権の十八番だ。
それどころか、安倍首相は「戦後レジームからの脱却」を唱えながら、ポツダム宣言をつまびらかにしないと平気で述べる。安倍政権の政策は対米追随の「戦後レジーム」そのものである。戦争法案を国会に提出する以前に、米議会で夏までの成立を約束すると発言したことに象徴的に表れているように、安倍政権の政策は日本のためではなく、対米追随のために策定されている。
憲法調査会に招かれた憲法学者たちが、自民党推薦学者も含めて、戦争法案を違憲と断じた。戦争法案を違憲とする共同声明には二〇〇名を超える憲法学者が賛同している。水島は共同声明の呼びかけ人でもある。かつての自民党の大物政治家たちも今国会での成立を断念して、検討し直すようにと記者会見を行った。
しかし、安倍首相は国会審議においてさえ、幼稚なヤジを飛ばすありさまである。自公政権が数の力で押し切ることを予定し、理念なき維新の党がふらついてすり寄って来ることも見込んでいるからである。一部の翼賛マスコミだけでなく多くのマスコミが及び腰の批判に終始していることも、安倍政権を強気にさせている。
水島は自衛隊違憲論者であるが、本書では自衛隊違憲論を展開するのではなく、「現状をまず『専守防衛』ラインに引き戻そうという見地」に立つ。昨年七月一日の閣議決定で政府の憲法解釈を恣意的に変更し、安保法制の整備、自衛隊海外派遣恒久法の制定を目指す安倍政権は、軍事を突出させ、対米追随一辺倒の政策を猛烈に推進している。
水島は「いま、これ以上『病』を進行させないために最低限、1954年の政府解釈のライン(「専守防衛」)にまで引き戻すことは、立憲主義と平和主義の崩壊を阻止するという観点から重要な意味をもっています。このラインで一致できる政党ないし政治家や個人が、『護憲』『改憲』を超えて、集団的自衛権の行使は認められない、さらには、憲法9条2項削除に『賛成はできない』というところで何らかのかたちで共同歩調をとることが真剣に求められています」と言う。従来の政府解釈が「屁理屈」であったとすれば、安倍政権の閣議決定は「無理屈」であるからだ。
本書は六つの講義にまとめられている。第一は「憲法と平和を考える『モノ』語り」であり、「集団的自衛権行使による死傷者、その家族の痛みを想像したことがありますか?」と問う。第二は「集団的自衛権行使が憲法上認められない理由」。第三は「集団的自衛権の事例を徹底分析」で、いかなる「結果」がもたらされるかを解明する。第四に集団的自衛権以外の「武力の行使」についても論じている。PKO派遣や駆けつけ警護などの問題である。第五にいわゆる「グレーゾーン」の諸問題を究明している。最後に憲法政策としての「武力なき平和」において、平和の「守り方」と「創り方」を説いている。

  本書はすでに国会審議やメディアの報道においても活用されているようだが、まだまだ十分とは言えない。平和運動に加わる市民も本書に学んで、安倍政権の大いなる嘘と闘う理論を身につけることが必要である。平和憲法学を「驚きと発見の憲法学」として構築してきた水島のライブ講義は「戦争とたたかう」市民の必読書である。