Sunday, June 19, 2016

三島由紀夫にとって天皇を守ることとは

鈴木宏三『三島由紀夫 幻の皇居突入計画』(彩流社)
1970年の市ヶ谷自衛隊駐屯地事件で割腹自殺した三島由紀夫について、おびただしい謎や伝説が語られてきたが、そこにもう一つの謎が付け加えられた。
市ヶ谷事件とクーデタは本来の計画ではなく、三島は、1969年の国際反戦デーにおいて、警察力による警備では足りず、自衛隊の治安出動がなされることを期待し、治安出動に乗じて楯の会メンバーとともに皇居に突入し、「天皇を殺す」計画だったのではないか。実際には国際反戦デーが警察の圧倒的な力によって封じ込められ、自衛隊の治安出動がなくなり、計画は消え去ってしまった。最大の希望を失ってしまった三島は落胆し、見果てぬ夢を追うことすらできず、森田必勝らとともに市ヶ谷事件を起こしたのではないか。
著者は、晩年の三島の小説、座談会、手紙、当時三島と会った人々の回想など多くの記録をもとに、「幻の皇居突入計画」に迫る。政治的事件としてではなく、文学として、三島は「神」と「神の死」にこだわり、神であるべき時に人間になってしまった天皇の失政に怒り、「天皇を守る」ために「天皇を殺す」途を模索したのであろう。
肝心の皇居突入計画については資料が少なく、推測による部分も多いが、説得的である。

なお、著者は、元一水会顧問の鈴木邦男の弟で、文学研究者、山形大学名誉教授である。