Thursday, June 02, 2016

横浜地裁川崎支部のヘイト・デモ差止仮処分決定を歓迎する

(1)川崎支部決定
6月2日、横浜地裁川崎支部は、5日に予定されていたヘイト・デモについて、ターゲットとされた地点から半径500メートル以内のデモを禁止する仮処分決定を出した。
川崎支部は、成立したばかりのヘイト・スピーチ対策法の定義に照らしてヘイト・スピーチに当たると認定し、不法行為になると判断した。差別的言動は違法性が顕著であり、集会や表現の自由の保障の範囲外であるとし、法人も個人も人格権を侵害される差別的言動を事前に差し止める権利があるとした。
的確かつ明快な判断であり、歓迎したい。事前差し止め仮処分については、京都朝鮮学校事件に際しての京都地裁により仮処分決定があるが、対策法制定後の判断としては初めてである。
これまで繰り返し被害を受け、これと闘ってきた在日朝鮮人、地域で共に暮らす街づくりをしてこられた関係者、ヘイト・スピーチを許すなと立ち上がってきたカウンターの皆さん、ジャーナリスト、弁護団の努力に敬意を表したい。
(2)ヘイト・スピーチと表現の自由
川崎支部決定は、対策法が規定するヘイト・スピーチについて、差別的言動はもっぱら差別的意識を助長し、誘発する目的で、公然と生命や財産に危害を加えると告知することなどを考慮すれば、違法性は顕著で、もはや集会や表現の自由の保障の範囲外であることは明らかだとし、この人格権の侵害への事後的な権利回復が著しく困難であることを考慮すると、事前の差し止めは許容されるとした。
この数年間、各地の現場でヘイト・デモ禁止を求めてきた被害者、学者、弁護士が唱えてきた主張そのものと言ってよい。
これに対して、多くの憲法学者が、「ヘイト・スピーチには被害がない」とか、「ヘイト・スピーチといえども表現の自由だ」とか、「ヘイト・スピーチの規制は民主主義に反する」など、信じがたい主張をしてきた。現実を無視し、人間の尊厳を否定する無責任な疑似憲法学である。

川崎支部決定は、疑似憲法学に惑わされることなく、ヘイト・スピーチの現実を見据え、的確な法判断を行った。日本国憲法、人種差別撤廃条約に照らして当然の判断であるし、対策法の定義に照らしても的確である。