Tuesday, December 27, 2016

山城博治氏の釈放を求める刑事法研究者の緊急声明

2月28日午後1時に第一次集約を締めて、下記のプレスリリースとともに発表しました。

1月12日、参議院会館での院内集会において第二次集約を発表しました(63名の賛同者)。その後1名増えて、現在64名です。

プレスリリース「山城博治氏の釈放を求める刑事法研究者の緊急声明」について
2016.12.28
 日本政府は、民主的に表明される沖縄の民意を国の力で踏みにじっておきながら、日本は法治国家であると豪語する。法律を学び、教える者として無力感におそわれる。まことに残念ながら刑事司法もこれに追随し、非暴力平和の抗議行動を刑法で抑え込もうとしている。平和を守ることが罪になるのは戦時治安法制の特徴である。しかし、今ならば引き返して「法」をとり戻すことができるかもしれないので、刑事法学の観点から、山城氏の逮捕・勾留こそが違法であり、公訴を取消し、山城氏を解放すべきであることを説明する必要があった。
 10日前に海外識者らの「山城博治氏らの釈放を求める声明」が発表され、その後、沖縄県内の二紙が、勾留中の山城氏の「県民団結で苦境打開を」「未来は私たちのもの」とする声を伝えた。日本の刑事法研究者としても、刑事司法の側に不正がある、と直ちに応じておかねばならないと考え、別紙のとおり、「山城博治氏の釈放を求める刑事法研究者の緊急声明」(2016.12.28)を発表する。

呼びかけ人(50音順) 
春日勉(神戸学院大学教授) 中野正剛(沖縄国際大学教授)本庄武(一橋大学教授) 前田朗(東京造形大学教授) 森川恭剛(琉球大学教授)

賛同人(50音順) 浅田和茂(立命館大学教授) 足立昌勝(関東学院大学名誉教授) 雨宮敬博(宮崎産業経営大学准教授) 生田勝義(立命館大学名誉教授) 石塚伸一(龍谷大学教授) 稲田朗子(高知大学准教授) 内田博文(神戸学院大学教授) 内山真由美(佐賀大学准教授) 梅崎進哉(西南学院大学教授) 大出良知(東京経済大学教授) 大場史朗(大阪経済法科大学准教授) 大藪志保子(久留米大学准教授) 岡田行雄(熊本大学教授) 岡本洋一(熊本大学准教授) 垣花豊順(琉球大学名誉教授) 金尚均(龍谷大学教授) 葛野尋之(一橋大学教授) 黒川亨子(宇都宮大学講師) 斉藤豊治(甲南大学名誉教授) 櫻庭総(山口大学准教授) 佐々木光明(神戸学院大学教授) 笹倉香奈(甲南大学教授) 島岡まな(大阪大学教授) 白井諭(岡山商科大学准教授) 鈴木博康(九州国際大学教授) 陶山二郎(茨城大学准教授) 関哲夫(國學院大学教授) 高倉新喜(山形大学教授) 寺中誠(東京経済大学非常勤講師) 土井政和(九州大学教授) 徳永光(独協大学教授) 豊崎七絵(九州大学教授) 内藤大海(熊本大学准教授) 新倉修(青山学院大学教授) 新村繁文(福島大学特任教授) 平井佐和子(西南学院大学准教授) 平川宗信(名古屋大学名誉教授) 福井厚(京都女子大学教授) 福島至(龍谷大学教授) 福永俊輔(西南学院大学准教授) 保条成宏(福岡教育大学教授) 本田稔(立命館大学教授) 前野育三(関西学院大学名誉教授) 松宮孝明(立命館大学教授) 松本英俊(駒澤大学教授) 三島聡(大阪市立大学教授) 水谷規男(大阪大学教授) 三宅孝之(島根大学特任教授) 宮本弘典(関東学院大学教授) 宗岡嗣郎(久留米大学教授) 村井敏邦(一橋大学名誉教授) 村田和宏(立正大学准教授) 森尾亮(久留米大学教授) 矢野恵美(琉球大学教授) 吉弘光男(久留米大学教授) 他4


以上 64人(2017/01/18現在)



山城博治氏の釈放を求める刑事法研究者の緊急声明
沖縄平和運動センターの山城博治議長(64)が、70日間を超えて勾留されている。山城氏は次々に3度逮捕され、起訴された。接見禁止の処分に付され、家族との面会も許されていない山城氏は、弁護士を通して地元2紙の取材に応じ、「翁長県政、全県民が苦境に立たされている」「多くの仲間たちが全力を尽くして阻止行動を行ってきましたが、言い知れない悲しみと無慈悲にも力で抑え込んできた政治権力の暴力に満身の怒りを禁じ得ません」と述べる(沖縄タイムス20161222日、琉球新報同24日)。この長期勾留は、正当な理由のない拘禁であり(憲法34条違反)、速やかに釈放されねばならない。以下にその理由を述べる。
山城氏は、①20161017日、米軍北部訓練場のオスプレイ訓練用ヘリパッド建設に対する抗議行動中、沖縄防衛局職員の設置する侵入防止用フェンス上に張られた有刺鉄線一本を切ったとされ、準現行犯逮捕された。同月20日午後、那覇簡裁は、那覇地検の勾留請求を却下するが、地検が準抗告し、同日夜、那覇地裁が勾留を決定した。これに先立ち、②同日午後4時頃、沖縄県警は、沖縄防衛局職員に対する公務執行妨害と傷害の疑いで逮捕状を執行し、山城氏を再逮捕した。1111日、山城氏は①と②の件で起訴され、翌12日、保釈請求が却下された(準抗告も棄却、また接見禁止決定に対する準抗告、特別抗告も棄却)。さらに山城氏は、③1129日、名護市辺野古の新基地建設事業に対する威力業務妨害の疑いでまたしても逮捕され、1220日、追起訴された。
山城氏は、以上の3件で「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」(犯罪の嫌疑)と「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由」があるとされて勾留されている(刑訴法60条)。
しかし、まず、犯罪の嫌疑についていえば、以上の3件が、辺野古新基地建設断念とオスプレイ配備撤回を掲げたいわゆる「オール沖縄」の民意を表明する政治的表現行為として行われたことは明らかであり、このような憲法上の権利行為に「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」があるのは、その権利性を上回る優越的利益の侵害が認められた場合だけである。政治的表現行為の自由は、最大限尊重されなければならない。いずれの事件も抗議行動を阻止しようとする機動隊等との衝突で偶発的、不可避的に発生した可能性が高く、違法性の程度の極めて低いものばかりである。すなわち、①で切断されたのは価額2,000円相当の有刺鉄線1本であるにすぎない。②は、沖縄防衛局職員が、山城氏らに腕や肩をつかまれて揺さぶられるなどしたことで、右上肢打撲を負ったとして被害を届け出たものであり、任意の事情聴取を優先すべき軽微な事案である。そして③は、10か月も前のことであるが、1月下旬にキャンプ・シュワブのゲート前路上で、工事車両の進入を阻止するために、座り込んでは機動隊員に強制排除されていた非暴力の市民らが、座り込む代わりにコンクリートブロックを積み上げたのであり、車両進入の度にこれも難なく撤去されていた。実に機動隊が配備されたことで、沖縄防衛局の基地建設事業は推進されていたのである。つまり山城氏のしたことは、犯罪であると疑ってかかり、身体拘束できるような行為ではなかったのである。
百歩譲り、仮に嫌疑を認めたとしても、次に、情状事実は罪証隠滅の対象には含まれない、と考えるのが刑事訴訟法学の有力説である。②の件を除けば、山城氏はあえて事実自体を争おうとはしないだろう。しかも現在の山城氏は起訴後の勾留の状態にある。検察は公判維持のために必要な捜査を終えている。被告人の身体拘束は、裁判所への出頭を確保するための例外中の例外の手段でなければならない。もはや罪証隠滅のおそれを認めることはできない。以上の通り、山城氏を勾留する相当の理由は認められない。
法的に理由のない勾留は違法である。その上で付言すれば、自由刑の科されることの想定できない事案で、そもそも未決拘禁などすべきではない。また、山城氏は健康上の問題を抱えており、身体拘束の継続によって回復不可能な不利益を被るおそれがある。しかも犯罪の嫌疑ありとされたのは憲法上の権利行為であり、勾留の処分は萎縮効果をもつ。したがって比例原則に照らし、山城氏の70日間を超える勾留は相当ではない。以上に鑑みると、山城氏のこれ以上の勾留は「不当に長い拘禁」(刑訴法91条)であると解されねばならない。
山城氏の長期勾留は、従来から問題視されてきた日本の「人質司法」が、在日米軍基地をめぐる日本政府と沖縄県の対立の深まる中で、政治的に問題化したとみられる非常に憂慮すべき事態である。私たちは、刑事法研究者として、これを見過ごすことができない。山城氏を速やかに解放すべきである。