Wednesday, March 15, 2017

「イスラム国」の正体を探る

川上泰徳『「イスラム国」はテロの元凶ではない――グローバル・ジハードという幻想』(集英社新書)
元朝日新聞記者・編集委員の中東ジャーナリストの本だ。今もエジプトを拠点に取材活動を行っているという。
タイトルの趣旨は、第1に、「イスラム国」は混乱の原因ではなく、混乱の帰結であるということ。
第2に、各地で続発したテロ事件の多くは「イスラム国」との連絡なしに行われたにもかかわらず、欧米諸国が「イスラム国」と結び付けて大騒ぎしたため、「イスラム国」が後付けで「我々のテロ」と認知し、これがさらに報道されて、「グローバル・ジハード」という幻想が生み出されたということ。
著者は以上の視点から、現代世界を総体的にとらえ返し、テロのグローバルな拡散の意味を明らかにし、これに対する対処を提言する。
従来の議論では、「イスラム国」という特殊で異常な集団がイラク北部を中心に占拠し、虐殺とテロを繰り返していることばかりが強調されてきたが、現実とイメージは違うという。著者は「イスラム国」を擁護しないが、「イスラム国」を生み出してしまった世界情勢、とりわけ中東情勢の構造的歴史的要因を探る。「イスラム国」とアルカイダ、「イスラム国」とアラブの春などの関係も見直す。
なかでも著者が強調するのは、イラクにおけるシーア派権力の樹立以後、排除され、差別され、殺されてきたスンニ派の受難である。追い詰められたスンニ派が、一方では難民となり、他方では「イスラム国」を支える結果となっている。
このことを詳細に論じて、著者は、イラク国家を立て直して、スンニ派迫害を止め、スンニ派を取り込んだ安定政権を作れば、「イスラム国」への支持や期待は雲散霧消するはずだという。にもかかわらず欧米諸国は爆撃を繰り返して、スンニ派をいっそうの苦境に追いやっている。これでは問題は解決しない。

APOLPGIA, Sion, Romand, 2015.